Turn01 カノエ/7
「今日は二人揃って、いらっしゃーい。ひゅーひゅー」
アミューズメントセンター“ミストランド遠野店”の自動ドアをくぐり、クラウンシェル筐体のある中央エリアに足を運ぶと、ソレを目ざとく見つけたインストラクターの白百合朱音が、随分と古臭い冷やかしのフレーズと共に手を振った。
「朱音さん、またそんな愉快な接客してると、店長に怒られますよ?」
世良がやれやれと言った風に肩を竦めて、朱音を咎めた。
世良と朱音はヘヴンズハース稼動当時からの知り合いだそうで、よく応対のマニュアルを無視して喋っては、店長から怒られているそうだ。
「いーのいーの、世良ちゃんはお得意様だしね。女の子のお客さんは少ないし、大事にしないと」
店長さんには残念なことに、当人に反省する様子は無いようだ。
庚の知る限り、持ち前の溌剌とした明るさと、型破りでは有るが丁寧な接客のお陰か、彼女はインストラクターの中でも一際目立つ人気者だった。
「あれ? 今日、皆倉君は?」
「ああ、なんか用事あるって帰りました」
聞かれて、世良の後ろから庚が答える。
「あらら。今日は珍しくユージン君達も来ていないし、誰にも邪魔されずにイチャイチャ対戦出来るわね」
朱音が悪い顔をして口元に手を当てた。
「朱音さん!」
世良の慌てる姿は珍しい。
やり手のプレイヤーらしく、普段ミストランドに来ると超然とした立ち振る舞いをしているが、朱音の前では歳相応の女の子だった。
「じゃあ、世良とフリー対戦モードお願いします。今日こそ勝ちます」
「お、男前だね。カッコいいね」
いい機会なので話に乗ってみると、朱音はにんまりと笑って親指を立てた。
「もう、君まで……いいよ、じゃあ今日は手加減抜きでボコボコにしてあげる。朱音さんお願い」
すぐさまスパイクプレイヤーの顔になった世良が、不敵な笑みを見せる。
それは庚の好きな世良の表情だった。
「いいねぇ、青春だねぇ。おっけー、お二人様、フリー対戦モードでご案内~」
それを見ていた朱音は、何故か嬉しそうな顔でターンをしながら、セッティングの為にカウンターへ向う。
「あ、お荷物預かるよー」
「おねがい朱音さん」
カウンターで何かの操作をしながら朱音がそんなことを言うと、横でおもむろに世良が制服を脱ぎだした。
店内のど真ん中である。
「うおいッ!?」
思わず、庚の口から変な声が出た。
「ん? なに?」
世良はそんな庚の動揺もどこ吹く風で、そのままスカートのホックも外し、するすると脱いでしまう。
「ちょ――」
止める間もなく、あっという間に下着姿――というわけもなく。中にはノースリーブのシャツと、ホットパンツを穿いていた。
制服は綺麗に畳んでカウンターに置くと、カバンから取り出した藍緑色のパーカーを羽織、いつもの“遠野ミストのSERA”に早変り。
庚も、パーカー姿は見慣れていたが、まさかカウンターのまん前で着替えているとは思わなかった。
「こんなとこで着替えるか、普通」
実際、何人かの客が何事かとこちらを注視しているが、世良は意に介した様子もない。
「制服で筐体乗ったら、スカート傷んじゃうからね」
パーカーのポケットに手を突っ込んだいつものポーズで、世良は事も無げに言ったが、庚の咎めたい所はそこではなかった。