Turn04 ユードラ/6
アトマの小さな体が、腰の羽を摘まれてぶらぶらと揺れる。
「自我発現個体って言う……らしいんですけど……多分、コレが追われてる理由です」
「な……!?」
ユードラが驚愕に目を見開いた。
「ヒューレイですと? 本物ですか姫様?」
さらにはレイオンまでもが通信ウィンドウを開いて声を上げた。
「姫様言うな――私も実際に見るのは初めてです。シンザの大書庫に記されている通りの姿ですね……」
「これが、噂に聞く剣を極めた者の骨格艦に現れるという精霊ヒューレイ……ですか。このように幼いミクモ殿が、まさか剣を極めし者とは……いやしかし、それならば先ほどの業の冴えも納得と言うもの。なんという……眼福ですな」
レイオンはその目を驚愕に大きく見開いて呟いた。
――どうもなにか、大きな思い違いをしているようではあるが。
驚愕に口元に持っていった手を振るわせるユードラと、思わずモニターに身を乗り出して凝視するレイオン。両者に共通するのは、信じられないものを見たという表情である。
アトマのDLCがアップデートされるまで、自我発現個体と言う言葉はカノエも知らなかった。
その事をふまえ、この世界がヘヴンズハースと酷似していると仮定すると、アトマは随分と希少な存在なのかもしれない。
「いえレイオン、自我発現個体とヘルムヘッダーに因果関係はあるとされていますが、剣の腕は全然関係有りません。何処で吹き込まれたんです、その情報……」
「何ですと!? 剣の精霊ヒューレイと言えば、アルハドラ様の天元真刀流では、奥義を極めた末に授かると言う固有発現能力を超える最終秘伝。剣を志すものであれば、常識ですぞ姫様」
「あのお父様は……門下生にまた、そんなしょうもないホラを……」
レイオンは至って真面目に答えたようだが、その回答にユードラは頭を抱えるのだった。
カノエとしてはレイオンのエンディヴァーと剣を構えあった状態のままで、さっきから神経がピリピリとしているのだが、口を挟んで薮蛇になるのも怖く、傍観しか出来ないで居る。
【あたしってば剣の精霊だったの?】
「話がややこしくなるから止めてくれ」
三者三様にマイペース過ぎて、カノエは頭を抱える他無かった。
「良いですかレイオン。ヒューレイと言うのは剣の精霊などではありません。ストラリアクターの制御システム、ストラコアが長い年月の末に自我――精神経路を獲得した状態を自我発現個体と呼ぶのです――どちらかと言えば骨格艦の精霊です」
ユードラは眼鏡の位置を直しながら、レイオンに講義を始める。
カノエとしては緊張状態の中、ジルヴァラをホストにして通信のやり取りをしないで欲しいのだが、下手に刺激するわけにも行かず、引きつった笑いが出るばかりだった。
「なるほど……さすがは姫様、大変わかりやすい講義です。つまり、骨格艦と共に剣聖の境地に至らねば、ヒューレイの顕現は適わぬと言う事ですな。合点が行きましたぞ」
これには、話半分も判らないカノエも、ズッコケそうになる。
どうも天元真刀流のレイオンにとって、ヒューレイと言うのは、悟りか何かと同義であるらしい。
「……貴方の場合、大筋の認識はそれでいいです。後、姫様やめなさい」




