Turn01 カノエ/6
ヘヴンズハースの剣戟兵装スレッドでは、強武器として、定期的に弱体処理しろと書き込まれるほど高い評価を受ける鍛錬鋼刃は、本来カジュアルなフレーバーユーザーである庚の頼りの一振りだった。
「メレ3の時に薦めたやつ? ちゃんと使って練習してるんだってね。こないだ“ポン刀一本で凸るの止めさせないか?”ってユージンがブーたれてた。あはは」
そういって世良は快活に笑う。
「やっぱりだろ? 磁気加速式重力子弾射出器の射撃で援護してた時の方が、なんぼか役に立ってたんじゃないかい?」
世良が楽しそうで何よりだが、影で囁かれていた批評を聞かされた庚は、心中穏やかではない。
以前、主に使っていたのは磁気加速式重力子弾射出器と言う長距離砲で、それを用いた砲撃手。
可動式格納庫のスロットを二つ使い、砲身と機関部を連結させて構えるのが特徴で、ヘヴンズハースでは補助的な扱いの射撃武器には珍しく、破格の高火力を持つ、珍しい遠距離兵装だ。
「アレは飛び道具にしては撃破も取れるいい装備だけどさ……ダメだよ。近接をしっかりマスターしてからだね。援護って言っても、ただキル取るだけの“芋”じゃ、頭数が減る分、前衛の負担が重くなる。ユージンだって分かってるハズだけどねぇ……」
“芋”と言うのは、銃撃戦系のゲームで、後方で延々と“芋虫”のように伏せている狙撃手の姿を指す蔑称。
骨格艦のデフォルトの骨格挙動に伏せ姿勢というのは無いが、安全な後方から高火力を投射するのは、活躍しているように錯覚しやすい。
実際は、前線を担当する者の、負担が増える事の方が多いと言うのが世良以下、スパイクプレイヤーの弁。
特にヘヴンズハースは、近接攻撃での剣戟戦に重きが置かれており、数での不利は、銃撃戦タイプのゲームよりも格段に重い。
「鍛錬鋼刃使い始めてから、毎試合撃破されまくってるんだよね。“猪”もダメだと思うんだけど……」
やたらと突出し、攻撃を仕掛けたがる嗜好は、これも“猪”と言って別の蔑称がある。
攻撃を優先するあまり全体の防衛線に負担を掛けやすく、主に復活チケット制の対戦モードで、チーム共有の復活チケットを無為に消費する行為として嫌われる。
結局この手の蔑称は、意思疎通の失敗と敗北による愚痴の類なのだが、他人と協力、連携するべきゲームである以上、軽視もしにくい。それで陰口を叩かれて居たのであれば、尚のこと気になるものだ。
だけど世良は、そんな庚の心配もどこ吹く風。
「お陰で前線は上げれてるし。最近は前で戦ってられる時間も伸びてるんでしょ? 君は臆病だから、援護出来ないところまで“遠征”やらかして、無駄に死んでることはまず無いからね。んふふ」
そう言うと、彼女は楽しそうに笑うのだった。
馬鹿にされているように聞こえなくもないが、よく考えてみれば、褒められているようにも感じる。
彼女を倒せる実力を身に付けて、ハッキリと認められるようになりたい。それが目下の庚のモチベーションであった。
「あれ? そういえば今日、音ゲーマー君は?」
「皆倉? ああ、先に帰ったよ」
「あら珍しい……ふーん――まあ、じゃ……行こっか?」
“どこへ”とは聞き返したりしない。
二人で行く先はミストランド遠野店。世良との接点はヘヴンズハースだけだった。