Turn03 アトマ/9
「えっと、それはなんで? ……いや、ちょっとまて。おかしくないか? そのディエスマルティスって外宇宙船は六千年前の船じゃないの?」
【……君、思ったより状況理解……頭の回転早いよね】
頭がいいというよりは、状況への順応はまあまあ速い。新しいゲームを遊ぶとき、取扱説明書を読むよりも、とりあえず触ってみる派である。
「そりゃどーも……」
問い詰めようという勢いだったが出鼻を挫かれて、カノエはがっくりと項垂れた。勢いが持続しないのは、低血圧なカノエの悪い癖だ。
【そうだねぇ……最近の話の方がいいかな。君が六千年眠ってたのは、この骨格艦ジルヴァラの中だったんだけど――】
「そう……みたいだね」
カノエは目を覚ましたベッドに目を向けた。上部にケースを被せて密閉状態に出来そうな形状をしている。この中で本当に自分は、六千年も眠り続けていたのだろうか。
そんなカノエの表情を横目に見ながら、アトマは言葉をつづける。
【そのジルヴァラと一緒に封印されていた“君とあたし”は、何らかの要因で機能を停止したディエスマルティスと一緒に、ずっと宇宙を彷徨っていたんだよ】
「なんらかって? 僕はともかく、なんでアトマもわかってないんだ?」
【ジルヴァラも休眠状態だったし、それにストラコアからヒューレイが発現したのは、その遺跡船になって宇宙を彷徨うディエスマルティスに海賊が現れた時。だからそれより以前の詳細データは無いんだよ。君より“すこし早く起きた”くらいかな】
「分かったような、分からんような……そもそも、なんでアトマ……じゃないな、ジルヴァラか――それまで僕と一緒に封印されてたんだ? 骨格艦ってのは貴重なモノなんじゃないの?」
この世界がヘヴンズハースの設定通りなら、惑星が丸ごと買えるレベルの代物だ。
実際、ゲームプレイ上で稼いだゲーム内通貨の大半は、新しい骨格艦の購入に消えるし、外部販売される追加コンテンツの中で最も高額なのも骨格艦だ。
【理由は分からないけど、ジルヴァラは君の為に遺された船らしくてさ。君の精神経路に最適化されてるんだよ】
「僕の……精神経路?」
【でまあ、あたしとジルヴァラは海賊とは別の、フィラディルフィアって外宇宙船に拾われたんだけどね】
「そのフィラディルフィアって船はどこ行った?」
【フィラディルフィアも沈んだ……いやそんなことはない……はず、どうだろ】
「……なんか、とんでもない疫病神なんじゃないのか……話に出てきた船、ことごとく沈んでるんだけど?」
【いやぁ……それほどでも?】
照れ隠しか誤魔化しか、アトマは頭を掻いてそんなことを言う。
「笑いごとじゃないって……」
呆れたカノエが体を崩してソファの肘掛に頬杖をつこうとした時、突然、胸部居住区内が赤く染まり、警報が鳴り響いた。