Turn03 アトマ/8
【プラネットエミュレーションの設定時間は恒星暦前二百年前あたり……現在は恒星歴六一六九年だから……君の感覚だと、大体六千と三、四百年ぐらい時間が経ってると思っていいかな】
どうやらデータを参照したのは、カノエの認識に合わせて、説明するためらしい。そういうあたりは、制御システムであるストラコアらしい。
「……うん、続けて」
【君。本来のミクモ=カノエは六千年前、太陽系を出発した外宇宙船ディエスマルティスに乗っていた】
カノエは肘を付き、両手を合わせて、ジッとアトマの話を聞いている。
【恒星歴九十二年、ペルセウスアームの未明星系を目指していたディエスマルティスの中で、君は重度の星間物質アレルギーを発症。有効な治療法が無かった当時、未来の医療に一縷の望みを託して、親御さんは炭素冷却封印処置を選択】
「星間物質って……さっき宇宙で浴びてたっていうアレだよね。その重度のアレルギーはどうなったんだ?」
【それは治した】
「治したって……治療法が無かったんじゃ?」
【君が炭素冷却封印されて二千年ほど後に確立した治療法かな。症例の少ない難病で、当時は結構手間のかかる方法だったみたいだけど、今なら、骨格艦の設備でも割とあっさり治療できるよ。星間物質アレルギー関連の治療技術には、ストラコアが解析に一枚噛んでるから、ブラフマンの大書庫からすぐに引き出せたし】
「二千年も経ってたらそんなもんか……って、いやだからまてまて、おかしいでしょ。治す技術があったのに、僕はなんでその後、四千年も追加で寝かされてたの?」
【そりゃ……起こす人が居なかったから?】
「いやでも、未来の治療に期待して封印したなら、親がそういう契約をしていたとかそういう……」
カノエの知る“両親”とは別の存在なのだろうか、とそんな考えが頭の片隅を過る。
【その契約を、履行する人が居なかったんじゃないかな?】
「……どういうこと?」
【君が生まれた六千年前は、超国家組織は世界会議ぐらいしか無なくて、太陽系を中心に、ある程度中央集権の国家に近い機能を有していたけど、その後人類はオリオンアームやペルセウスアームへ広がって、大なり小なりの超国家が勃興していて、数千年の間に契約もどこかに忘れ去られたか……】
「あ、頭が痛くなってきた……」
現在の自身の状況よりも、時間のスケールのデタラメさに、である。
「それで、その後六千年放置された僕は、なんでまた今頃……解凍? されたんだ?」
【ディエスマルティスが襲撃されたの】
やはり事も無げにアトマは言った。