Turn03 アトマ/7
「ふー……」
カノエは胸部居住区に戻ると、ヘルメットを外して深呼吸をした。
部屋の中だが、今は開放感を感じる。
ここには重力がある。重力があることへの安心感を実感していた。
今までの自分が周りにあるいろいろなものに依って立っていたことを思い知った。今のカノエには依って立つ大地すらないのだ。
身を投げ出すようにソファへ腰を下ろすと、自分用の席に戻ったアトマを見た。
今、体を預けることができる骨格艦を操作しているのは、この小さなアトマだ。
「それで、その……なんていうか――ここは一体どこなの?」
改めて。それはカノエにとっては重要な疑問だった。昨日までゲームで遊んでいた普通の高校生が、宇宙空間に放り出されれば無理も無い。
カノエが取り乱さずに居るのは、ゲームで見慣れた胸部居住区と、一方でひどく現実離れした状況が成せる業である。
【もう一回言うよ? ペルセウスアーム・シンザ同盟領リューベック星団ツァーリ恒星系第四惑星レンドラの衛星ファーンの極天座標。転移航路の侵入点】
「惑星レンドラ……昨日、セラと対戦したステージか」
カノエにとって惑星レンドラの認識は、ゲームの一ステージでしかない。
「質問を変えるかな……ええと……僕はここでは一体何者なの?」
これも根本的な疑問だった。夢でなく、コレが現実だと言うのなら、突如として目覚めたミクモ=カノエが何者なのか。カノエ自身がそれを分かっていない。
アトマは少し躊躇いを見せたが、ふわりと座席の縁に腰掛けて答えた。
【君は、六千年前に炭素冷却封印された太陽系人類の生き残りなんだよ】
「ソラス?」
【んー……簡単に言うと、君は六千年ほど寝てたの】
「まてまてまて。意味がわからない。六千年寝てた? 僕が?」
【まあ、そういう反応は予想通りなんだけど……ちょっとまってね】
動揺するカノエを見てアトマはすこし思案すると、おもむろにコンソールを操作して何かのデータを呼び出した。
「何を見てるの?」
横から覗き込むが、アトマ用のディスプレイは小さすぎて読みにくい。
【君が遊んでいたプラネットエミュレーションのデータだよ】
「プラネットエミュレーション……ってゲームか何か?」
【君にとっては“現実”だったかもしれないね】
アトマが少し悪戯っぽく言った。
「ああ、そういう……」
事も無げに今までの生活が“偽物”と切り捨てられる。話の端々から頭で理解は出来ていても、感情が納得するのはまだ掛かりそうだ。