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Turn03 アトマ/5

【適応知識のインストに失敗した割には、落ち着きすぎてるんだよねぇ……あ、そろそろVOID(ヴォイド)から離脱するよ】


 居住区の中を蒼い光が一瞬、スキャナーのように走り、そしてそれきりだった。


「今のでおしまい?」


【外じゃ蓄電やら蓄光やらが放出されて、光ったり雷鳴ったりしてるかな。居住区の中でそんな大層な変化あったら困るし――外、出てみる?】


「ああ、うん」


 居住区の裏に移動すると、サバイバル関連の資材コンテナがストックされているスペースを通り抜け、気密室のような部屋に入る。

 アトマはと言うと、フワフワと浮遊しながら、そのままの格好でついて来ていた。


【ヘルメットを被って気密表示が出たら、その船外活動ユニットに座って。そう、体を固定して。操作はあたしがやるから】


 フルフェイスヘルメットのようなものを被る。便利なことに勝手にボディスーツと接続して、スーツ内の気密を保ってくれる構造のようだ。コレならよくわかっていないカノエでも自分で着られる。


 船外活動ユニットは、上半身を囲い込むような箱状の背もたれの付いた椅子というような形状。座るというよりは跨るように乗ると、背中が箱状の背もたれに固定された。

 ヘルメットの視界に、船外活動ユニットから、酸素が供給されている旨の表示が映る。


「出てる表示は全部クリアだね……これでいいっぽいの?」


 話が本当なら、この扉の向こうは宇宙だ。

 カノエの胸には不安よりも、ちょっとした高揚感がこみ上げてきていた。

 宇宙遊泳などは少しばかり憧れはしても、そこまでの興味は無い。ゲームやSFは好きだったが、宇宙飛行士に憧れるという種類のものでもなかった。


 それでもSF好きに宇宙とくれば、否が応でも気分が高揚するというものだ。

 そして扉はゆっくりと開かれる。


「――――……」


 そこには、言葉を失う絶景が広がっていた。

 暗闇に浮かび上がるように蒼い珠。その珠の中には、青と白が大きく斑を描き、所々を茶と緑が彩っている。


 生命の珠。


 カノエの知る地球ではない。別の惑星だ。雲の切れ間に見える大陸の形が、カノエの知る世界地図とまったく違っていた。


【どーだい?】


 宇宙服もなしにそのまま宇宙空間に浮かぶアトマが、船外活動ユニットの細い作業用アームに腰をかけて言った。


「僕……泣いてる……?」


 伸ばした指がヘルメットのグラスに触れた。涙の粒がヘルメットの中を舞っていたが、除湿の文字が表示され、カノエの涙は換気口に吸い込まれて消えた。


「――何か、見えないものが体を通っていく気がする……こんなに現実感が無いのに、どうしてこんなにも……」


 これが夢や幻でないことを、その感覚で理解した。同時にそれは元の生活が幻であったことを意味していた。


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