Turn02 セラエノ/25
セラエノは剣檄戦の興奮で、抑え込んでいたシュタルメラーラを斬り伏せたい衝動に駆られるが、片腕を失ったアストライアでは最早それも厳しい。
奥の手もあるにはあるが、勘のいいジゼルには博打が過ぎる。下手を打って、今倒れるわけには行かない状況だ。
「珍しく身を庇うな……セラエノお前、何企んでる?」
シュタルメラーラが右の可動式格納庫から、三本目の艦上曲刀を引き抜く。
骨格挙動を受けの型に変えたことに気付いたのだろう。外観の変化はなかったはずだ。
獣並の嗅覚である。
「多分、今アンタが感づいたこと」
「おまえ!」
ジゼルの咆哮と共にシュタルメラーラが踏み込んで、三本目の艦上曲刀が閃いた。
その業のキレは、先ほどアストライアの左腕部を半壊させた斬撃と遜色無いが、いささか直線的すぎる。今度はセラエノの誘った一撃だった。
片腕しかないアストライアが、半刃半柄鉈槍を器用に操って重力刃を受け止める。
――その時、待っていた声は届いた。
【セラエノ!】
「アトマ!」
【逃げてセラエノ! あたしはもう大丈夫だから!】
セラエノ達が斬り合うコンテナ艦の下部から、流星が流れた。
「ジルヴァラ、ユーリ副長制御の補助航行ユニット装備で射出確認。単独で小転移航路に突入します――船長!」
「ユーリッ! 後部コンテナ艦を分離! 離脱して!」
「船長! ご無事で!」
「また逃げるのかお前は! クヴァルの天騎士ともあろうものが! いい加減アタシとの決着を付けろ!」
足元の表層外壁が、宇宙に響くはずの無い轟音を響かせるように、揺れ始めた。
外宇宙船を維持していたエーテルシュラウドが絶たれ、超構造体化効果の失われた巨大な船体が、自重と応力により歪み始めているのだ。
アンカーユニットに繋がれた後部コンテナ艦を、ロケットがブースターを切り離すように置き去りにすると、外宇宙船フィラディルフィアは急速に加速を始め、瞬く間に離脱していく。
「んふふ。ごめんねジゼル」
セラエノがまた、場にそぐわない調子で、笑いながら謝った。
その時、アトマのジルヴァラが転移航路に突入する閃光が、宇宙を覆ったのだった。