Turn02 セラエノ/24
言うより速くセラエノは反射的に反応し、“受け”る。
骨格艦の手から離れ、ストラリアクターの星間物質供給が絶たれた半刃半柄鉈槍は、アストライアの重力刃にあっさりと斬り負け、両断された。
「――しくじった!」
しかし、叫んだのはセラエノだった。
震脚の武威によって受け流しを誘われたのだ。
囮の刃を切り払い、上体が浮き上がり、刃は右へ流れた。アストライアの骨格が開き、構えが崩れてコンマ数秒分の優位を失う。
既にシュタルメラーラは左腕部を、右腰に移動させた可動式格納庫へ送っていた。
腰椎フレームの右側下方に、まさしく鞘のような可動式格納庫が開き、二本目の艦上曲刀の柄が覗く。
その姿はまさに、暗剣で獲物を狙う暗殺者。投刃に使った右腕が頭部艦橋に掛かり、その影から赤いセンサーがギロリと睨む。
左脚部が滑るように前に出て、二歩目の震脚。間合いが詰まる。本命。星間物質が弾けて紫電が走った。
「ふはははは!」
修羅の嗤い。重力刃の紫電と共に、左横薙ぎがアストライアの腰椎フレームを狙う。
「船長!」
シュタルメラーラの斬撃の鋭さは、凄絶な斬り死にをした四番艦が証明している。角度が悪く、大腿部の外装甲板が可動しても、威力を削ぎきれずに突破される。
刃先の流れている半刃半柄鉈槍を引き戻しても、受けるには間に合わない。
「や、ら――、せるかぁ!」
セラエノがサブコマンドを入力すると、アストライアが武器を構えていた左腕を放し、続けて、左碗部に薙ぎ払いの骨格挙動。
それを受けた剣戟兵装を持たない左碗部フレームが、装備された外装甲板ごと、迫る艦上曲刀に叩き付けられた。
本来は、半刃半柄鉈槍を片手持ちで薙ぎ払う為の骨格挙動だ。
重力刃が、左腕部の外装甲板と接触、対消滅を起こし、溶断すると共にまばゆい紫電を放つ。
艦上曲刀は、叩き付けられた左腕フレームの中ほどまで食い込み、へし曲げた所で被膜された重力刃を使い切って停止した。
「左前腕及び関節構造体の機能十八%まで低下」
「左腕のエーテルシュラウド遮断。破損部切り離して。出力が惜しい」
「左前碗部及び、肘関節部のエーテルシュラウド供給を遮断。パージします」
艦上曲刀の喰い込んだ腕から超構造体化効果が失われると、破損箇所が損傷と蓄積された応力に耐えられず、グシャリと、傷を開くようにへし折れる。
使い物にならなくなった腕と共に、食い込んだ艦上曲刀が宇宙に舞った。
シュタルメラーラも斬撃の衝撃で歪み、食い込んで使い物にならなくなった艦上曲刀を手放したのだ。
「“ヘイトレッド”を乗せたから完全に獲ったと思ったんだがな……腕一本で止めるか。そんな骨格挙動はないはずだ」
やや落ち着いた口調で、しかし依然、興奮状態を表す赤眼をしながらジゼルは言った。
「剣戟のモーションを徒手空拳で振らせただけだよ。大体、拾った武器に重力刃展開して投げ斧代わりに使ったアンタに言われたくない」
「この勝負強さよな……やはり是が非でも私のモノにしたい。ナインハーケンズに来い、セラエノ!」
「全力でお断り」
しかし、そのセラエノの飄々とした言葉も、徐々に余裕が失われていた。