Turn02 セラエノ/22
「あははは! ウチの生え抜きを一太刀か! 腕は鈍ってないねセラエノ!」
ジュディの声を掻き消すかのように、ジゼルからの等方性通信波の怒号が重なった。相手を喰い尽くすような豪気を纏った声が、頭部艦橋に響き渡る。
振り返ったアストライアのモニターに映るのは、艦上曲刀で唐竹に、頭部艦橋から胸部居住区まで斬り込まれたエルアドレ四番艦の凄惨な姿だった。
シュタルメラーラの肩部外装甲板には、四番艦の半刃半柄鉈槍が突き刺さり、跳躍突撃に真っ向から唐竹割りで交差法を仕掛けたことが窺える。
半刃半柄鉈槍の跳躍突撃は受け流し損ねれば、外装甲板もろとも骨格フレームまで達する威力がある。
その勢いを利用しての交差法。頭部艦橋ごと胸部居住区まで斬り込まれたエルアドレ四番艦が、自身の突撃の威力を、その身で物語っていた。
両翼を守る二隻のクロムナインのように重力刃で受け流すのではなく、外装甲板で受け流し、交差法を仕掛けるなど、一歩間違えれば真逆の姿を晒すことになる。
並みの胆力ではなかった。
「相変わらず、どう言う神経してんだか」
セラエノが呆れ顔をしながら、シュタルメラーラの動きを伺う。
喰い込んだ艦上曲刀を手放し、完全に沈黙した四番艦に脚を掛けて蹴り飛ばすと、シュタルメラーラは赤い眼のようなセンサー類を輝かせてアストライアに向けた。
「ジルヴァラをよこせば見逃してやってもいいよセラエノ」
殺気の篭った声が聞いた。
命を懸けた剣戟に競り勝った興奮で、アドレナリンが過剰に分泌している。ジゼルの鈍色の瞳が真紅に染まっていた。
竜眼。カーディナルの由来の一つであるジゼルの特異体質で、白皮症や光彩異色症と違い、興奮状態になると発現し、見たものに心的ストレスを誘発――恐怖させる効果がある。
その真偽はともかく、少なくともナインハーケンズはそう吹聴し、実際にジゼルの殺気に中てられて、恐怖するものが居るのは事実だ。
「ひぅ」
等方性通信波に乗ってきた映像からも伝わるその迫力に、後ろのジュディが思わず息を呑むのが聞こえた。
「くれてやる気はないし、大体ジルヴァラを渡しても、根こそぎ奪ってくでしょアンタ」
セラエノはそんな赤眼のジゼルの殺気にも気圧されず、飄々と応えた。
「許嫁にずいぶん辛辣だね」
「あんたが勝手に仕組んだ婚約でしょ」
「なら、力づくで連れて行く」
言葉で斬り合いながら、互いに隙を窺う。