Turn02 セラエノ/21
軌道制御に使われた偏向重力推進の曳光が流麗な曲線を描き、捻りを加えながら敵陣様の背後、アンカーユニットに接続していた一機の正面やや右前方に降り立ち、そしてしっかりと腰を落とし、舞台役者の演ずる武芸者のように、腕を交差させた状態で半刃半柄鉈槍を構える。
肘の伸びたN字関節の腕を巧みに引き込み、右脚部が踏み出され、捻られた腰椎フレームが、軸足側から生み出される脚力を、重力刃の剣先の速さと威力に変換。
骨格艦のN字関節型四肢骨格構造は、エーテルシュラウドさえ供給されれば、破損した関節ですら偏向重力で、ある程度動かすことが出来るシロモノ。
一撃で仕留めるには、コックピットである頭部艦橋をつなぐ頚椎フレーム、或いはストラリアクターと胸部居住区をつなぐ腰椎フレームが切断するのが最適とされる。
特に腰椎フレームは骨格挙動の中枢軸の為、細かい関節フレームの集合体である都合上、外装甲板の可動アームを直接取り付けられず、防御に隙がある。
極端に低い軌道からの右斬り上げに、右大腿部の大型外装甲板が自動的に反応し、アームを稼動して防御しょうとするが、半刃半柄鉈槍の重力刃は、対消滅する紫電の火花を散らしながらその表面を滑り、右腕外装甲板と大腿部大型外装甲板の守りの隙、細い隙間に差し込まれ――
――神速一刀のもとに、クロムナインの腰椎フレームを両断した。
「一合もあわせず一撃で!?」
後部座席で一連の状況と駆動をモニターしていたジュディが、驚嘆の声を上げる。
骨格艦の剣戟戦の基本は、一つにエーテルシュラウド及び重力刃の制御管理と、もう一つは、船体各所に取り付けられた可動式の防御壁である外装甲板の破壊。
ストラリアクターは生産性の低さから希少性が高く、また主武装が追撃に向かない白兵武器であることもあり、骨格艦の剣戟戦は相手を大破するまで戦うことは稀で、外装甲板を何割か失った艦は後退がセオリーだ。
それゆえ、可動防御する外装甲板の隙間を縫っての一撃必殺などは、神業の類であった。
「クロムナインは駆逐仕様で敏捷性重視。外装甲板のカバー範囲に隙間が多いからね。後は不意打ちと幸運。これでジゼルを挟み撃ちに出来れば、下がらせられる――ジュディ、状況」
「三番艦、五番艦、共に接敵成功。組み付きました。あれ……四番艦の反応が――」