Turn02 セラエノ/19
別働隊のアーチボルトがライゼンに初太刀を打ち込んだ頃、フィラディルフィアの表層外壁に打ち込んだアンカーユニットに取り付いたジゼルは、光学観測探信儀の感度をあげて、敵骨格艦を探していた。
頭部の固定式外装甲板の隙間に埋め込まれた光学センサーが、赤く輝いて周囲を観測すると、こちらに急行するアストライアとエルアドレ三隻を捕捉する。
「セラエノが向かって来ている。ここが前線になるな。ジルヴァラは?」
燃える炎のような紅の蓬髪をしたジゼルの左眼は隻眼であった。
褐色の肌と剃刀色の右の瞳、そして長い耳は、不老種であることを示している。
「ザッと観測たトコ、クシャナ嬢が言うのに該当する艦は見当たりませんね」
その右翼で警戒する骨格艦クロムナインのヘルムヘッダー、ナインハーケンズ副長クロウド=ラーゼンが答えた。
「アストライアの動きを見る限り、コイツは当たりっぽいが……」
ジゼルは中央コンテナ艦に撃ち込まれたアンカーユニットを、骨格艦シュタルメラーラで小突いて言う。
「――まあいい……七番から九番は掠奪優先。“いつもどおり”だ! 価値のあるものはすべて奪え!」
ジゼルはその整った顔立ちに似合わず、獅子の咆哮のような怒声を放つと、三隻のクロムナインのヘルムヘッダーから、「アイ・マム!」と敬服と緊張の入り混じった応答が帰ってくる。
「いいんでスかい? 折角出したクロムナインを分散して」
「ここに戦力を集めたら、ジルヴァラはともかくアストライアに逃げられるだろうが、頭数を五分にしてやればアイツが見逃すはずはない――掛かってこいセラエノ」
指示を出したジゼルは光学観測探信儀の示した、アストライアが居る方角を見据えてひとりごちた。
「まだ、セラエノさんのこと諦めてないんスか?」
「当たり前だ! あたしは海賊だぞ!」
「逃げた許嫁を追いかけるのは、海賊の範疇にはいるんスかね……」
「クロウド、お前、後でぶっ飛ばす」
「スいやせん」