Turn01 カノエ/4
「――……うーん」
しかし、そんなフレーバーユーザー向きのエッセンスにすら、庚が今一つ煮え切らないのは、〈アトマ〉のデザインやパッケージ内容が琴線に触れなかったわけではなく、問題は単純に財布事情であった。
「――先月、世良に言われて鍛錬鋼刃買っちゃったしね……」
原因は先月買った、骨格艦の主武装である剣戟兵装。
鍛錬鋼刃はブレードのバージョンアップ、メレー・タイプⅢで新規追加された、日本刀型の強化ブレード。
平均的なパラメータを持つ片手半破砕剣よりも、数フレーム早い骨格挙動が売りの新武装。
同バージョンアップで導入された一連の多人数強襲型クエストのレア報酬の一つであるが、対戦ゲームの側面が強いこのゲームでは抜け道として、闇商人のスレインから、ゲーム内通貨のクレジットではなく現金で直接買い付けることができる。
柄の造りはSF的で、鍔と柄と刃のそれらが一体化しており、お世辞にも日本刀には見えないし、刃紋を備えた反身の片刃は、中ほどで折れたように“ズレ”ており、ここがスライドして長い刀身を可動式格納庫に収納する様になっている。
細身の艦上曲刀と言えなくもないが、刃渡りはこちらの方が長く、両手持ちの斬撃パターンも豊富。重力刃を発生させると刃部全体を覆う従来型と違い、片刃だけが強く発光するのが特徴的だ。
腰背部にアームで接続された可動式格納庫を、刀の鞘のように腰の脇に移動させ、収納された状態から居合い斬りのように斬り抜く、美しい専用の骨格挙動が売り。
移動慣性を乗せるほど威力が増す特性と“|攻撃時間辺りの威力比率《DPS》”が非常に優秀ということで世良に薦められ、近接戦闘の練習の為に買ってしまったのだが、安い買い物ではなかった。
結果、プレイ料金のことを考えると、今月は無駄遣い出来ない状態だった。
「ま、今週のセールはスルーかな」
販売期間は3day――三日しかないから、そうして、庚は〈アトマ〉のことはきっぱりと購入を諦めたのだった。