Turn02 セラエノ/17
「船長、アンカーAへ向かった三隻はどうしますか?」
「無視で。どうせコンテナ艦はくれてやることになるから、気にしないでいいよ」
「ではジルヴァラの格納庫直上のアンカーBに取り付いた、骨格艦シュタルメラーラ以下、敵本隊四隻を優先対象に設定。全艦、船長のアストライアに続いてください」
骨格艦アストライアの頭部艦橋で、後部座席のジュディ=ジェイスが状況を告げた。
若いが、オペレータの中では管制能力に特に優れた子だった。囮になるつもりのセラエノが連れて行くのを躊躇ったほどである。
「足場の無い宙空戦は致命打が入れにくい。ライゼンとユージンには、折を見て各個で離脱しろと伝えて」
「こちらは?」
「ジルヴァラとフィラディルフィアが離脱する時間を稼ぐ。そのあと私たちも逃げるよ」
「かなり無茶な感じですけど……」
アトマのジルヴァラが無事離脱できることが最優先だが、だからと言ってフィラディルフィア乗員約千五百名を、見捨てるわけにも行かないのであった。
殿の自分たちが逃げるのは、更にその後。
「ごめんね。女の子に貧乏くじを引かせちゃって」
「いえ、私もフィラディルフィアに乗った時から覚悟は出来ています。それに、セラエノ船長の戦いを間近で見られるなら悪くはないです」
事も無げにジュディは言った。これは彼女の肝が、特別に据わっているというわけではない。外宇宙船の乗組員というのは惑星侯の領民に比べ、長く外宇宙船という人工物の中に生きるが故に、自らの死について、やや達観したところがある。
とは言え、死が怖くないわけでもない。
それらは本来、人が生きることの出来ない“宇宙”を身近に感じて生きる自然種達の死生観であった。
「寿命に際限が無いだけ、不老種の方が死ぬのは怖いのかもね……」
「そういえばクヴァルの一番初めの皇帝さんって、まだ生きてらっしゃるんでしたっけ? たしか一番最初に自然受胎で生まれた不老種の方ですよね」
「始帝ヴァルヴァラ――彼女が自然受胎で生まれたことで、不老種を新たな人種として認められる契機になった最初の一人。まだ生きてらっしゃるはずで、御歳六千云百歳だね」
「私たちは二、三百年で死んじゃいますから、よくわかんない感覚ですよね……」
ジュディはあっけらかんとしたものだが、六千年前、その“寿命の違い”が原因で迫害されることを予見した古不老種達は、新天地を求めてペルセウスアームへと。当時、未知の領域であった銀河腕間の大転移を敢行したのだった。
「永遠の寿命って言っても、そんないいものでもないしね……」
クヴァルにはその永遠の寿命で、無為に生きる者がたくさん居た。なまじ寿命に際限が無いものだから、年長者に押さえつけられ、若い不老種には息苦しい。
そんな閉塞した環境に嫌気のさしたセラエノはクヴァルを飛び出し、シンザ同盟へと亡命し、そして今、クヴァルの旧知に追われているのだった。