Turn02 セラエノ/14
「三隻が隊列を離れ、ライゼン隊長の資源小惑星に向っています」
「採掘用アンカーユニットを切り離して。ライゼン達はそのまま小惑星で迎撃」
戦術卓では真っ直ぐこちらへ向う光芒から、三つが隊列を離れる動線と、その続きに破線で資源小惑星に向う予測航路が示された。
【ディエスマルティスの時、セラエノに出し抜かれたのが癪に障ったのかな。純戦力差を目一杯使って容赦なしだね】
戦術卓の光点を“ふむふむ”と分析しながらアトマが言った。精神が未熟なヒューレイとはいっても、やはりストラコアだけのことはある。正確な分析だった。
骨格艦ジルヴァラが発見された遺跡船ディエスマルティス上で、ナインハーケンズとは一度交戦している。
その際、フィラディルフィアが出し抜く形でジルヴァラを回収し、現在に至っていた。
「その点については、ジゼルさんの気持ちは良くわかりますけども」
セラエノに振り回された回数では最も多いであろうユーリが、アトマの状況分析に深い同意を示した。
「わからんでいいです」
戦術卓前で三人が喋くっている間にも、戦況は刻一刻と変化を見せる。
この広い宇宙では指揮を系統立てる手段も乏しく、定数が揃えにくい外宇宙船や骨格艦を、無数にある恒星系や惑星、転移航路に配置するのは現実的ではなかった。
そのために出来たのが、ナインハーケンズのような私掠船団である。
コロニーと、そして宇宙要塞しての機能を有する外宇宙船をもって、宇宙を回遊し、他勢力の船や惑星を襲い、また自勢力の船と惑星を護る。
勢力図が銀河一円に広がった世界で、勢力主力規模の艦隊を揃えての宇宙会戦などは、政治的な要因も含めて滅多と起こる事ではなく、そんな中、彼らは日々遭遇戦という最前線に立ち続ける猛者たちだ。
そしてナインハーケンズから見れば、フィラディルフィアは獲物であるジルヴァラを掠め取った憎き相手。
「まったく。そこらで惑星でも襲っていればいいものを――質量火砲全門一斉射! アンカーユニット来るよ! 着弾位置、最優先で上げて!」
セラエノが言うが早いか、外宇宙船フィラディルフィアを現す立体図面の左舷にアンカーユニット着弾の警告が表示される。
「後方のコンテナ艦にアンカーユニット三基被弾!」
機材砲から発射されるアンカーユニットは、掘削用アンカーユニットを無重力合金鋼の針金で編み上げたロープで繋いだ、移乗攻撃用の機材砲弾頭。
エーテルシュラウドの超構造体化効果で護られた無重力合金鋼のロープを敵外宇宙船と橋渡し、骨格艦で移乗攻撃を仕掛ける為に撃ち込まれる。
ナインハーケンズのような私掠船から射ち込まれたアンカーユニットは、まさに襲撃の合図だ。
砲弾のように撃ち出された巨大なアンカーユニットの衝撃エネルギーは、地上に撃ち込めば山一つを掘り返せる程の威力だが、フィラディルフィアの全長三十kmに及ぶ巨大な船体の構造を支え、偏向重力と超構造体の剛性が衝撃の大半を吸収し、指揮所まで届いたのは警報システムが告げる警告音だけだった。