Turn02 セラエノ/13
「第一種配備! 取舵一杯! 左舷、質量火砲稼動! オートじゃ役に立たないから手の空いているものは全員砲座に回って! 命中弾にはボーナス出すよ!」
第一種配備を知らせる赤い光が明滅し、安穏としていた航行指揮所が一転、喧騒に包まれた。
「ようそろ! 手の空いた者は、左舷砲座へ!」
「居住区に戦闘警報。非戦闘員はリアクター艦側、救命ボートに移乗急げ!」
セラエノの檄が飛ぶ。平時のノン気な声音も表情も消えて、セラエノの琥珀色をした瞳が、モニターに映る外宇宙船ナインハーケンズに潜むものを睨みつけた。
「ライゼン達戻せる? あと防衛システムの状況」
「敵の展開が早く間に合いそうにありません。質量火砲稼働率が32%」
「残りのリソースは骨格艦の展開に回して。格納庫に攻撃されたら手も足も出なくなる」
「骨格艦の起動フェーズを最優先。各ヘルムヘッダーは急いで乗艦してください。船長、現在可動中の質量火砲数では迎撃に不十分ですが……」
「いい。光学視認距離だし、ゆったり撃ち合いにはならないよ。キャニスター弾でばら撒いて牽制を優先。多少削るなり時間を稼げるなりすれば、それでいい。敵骨格艦の移乗攻撃を警戒。相手の好きにさせるな!」
「総員、艦上迎撃戦!」
指示を受けて、管制官はすぐさま職務に戻る。
その隣のレーダー盤は、いよいよ持って絶望的な状況を映し出していた。
「敵船から骨格艦の射出光! 光学観測、敵艦影捕捉……数十! 船長どうしよう! 骨格艦が二桁もいる!」
レーダー分析官が悲痛な声で叫ぶ。
「ジゼルは金持ちだからね」
戦術図に転写されたデータでは、全長百mほどの小型の反応が十隻。一糸の乱れなく戦闘速度で航行している。
全長三十kmに及ぶ外宇宙船に比べると、その大きさは象と蟻ほどの差があるのだが、敵艦の接近を告げるオペレータの声にはあきらかに動揺の色があった。
モニターの端に映っているのは、米粒ほどの大きさの物体。直接交戦距離にまで接近した敵外宇宙船から飛来する、十の小さな光芒。
それは宇宙の死神が放つ曳光であった。
「――手持ちの骨格艦、全部突っ張ってきたか……脳みそ筋肉にもほどがあるでしょう。本船の方になにかあったらどうすんだ」
骨格艦――ストラリアクターを動力炉として建造された人型惑星探査船。そして、外宇宙船と同等のエーテルシュラウドに守られた宇宙最強の格闘戦艦。
銀河系一円にその生存圏を広げた現在の技術大系を持ってしても、こと格闘戦闘能力において、骨格艦に比肩する艦艇は未だ存在しない。
数隻で居住可能惑星が買えると言うほどに希少で高価。しかもストラリアクターは一基でも、大型都市のシステムとリソースを一手に賄えるほどである。
その為、主惑星級の惑星侯が有する艦隊でも、六隻稼働体制が定数。
十隻と言う数は、星団公並の財力を持つとまで言われる外宇宙船ナインハーケンズが保有する、クロムウェル級の改修型クロムナインをその名の通り九隻。
そしてジゼルの持つ固有骨格艦シュタルメラーラ。それらをすべて投入したことを意味している。
セラエノが罵るのも無理からぬ、フィラディルフィアを襲撃するには大げさな戦力だった。消耗や状況をいとわなければ、シンザ中央星団の惑星とすら交戦可能な戦力。
一方フィラディルフィア側の戦力は骨格艦エルアドレが五隻と、セラエノの固有骨格艦アストライアの計六隻。
フィラディルフィアも船団諸侯の剣戟戦力としては十分過ぎるほど強力なのだが、ナインハーケンズはそれを悠に上回る、倍近い数だ。