Turn02 セラエノ/6
資源採掘作業開始後も航行指揮所には大きな変化は無く、コンソールの操作音だけが響き、粛々と状況が進行していた。
戦術卓に陣取るセラエノの正面には、やや上方に大型モニターがあり、その下では計器類や観測器をモニターするオペレータ達が黙々と任務をこなしている。
戦術卓の前で腕組みしながら状況を見守っていたが、しばらくして、タブレット端末を操作しているユーリに話しかけた。
「ユーリ、状況は?」
「機材砲班の採掘用アンカーユニットの撃ち込み作業が半ば。それらの固定作業のため、ライゼン隊長とユージンが骨格艦エルアドレで発進準備中です」
「私もアストライアで出たいな」
「ダメです“船長”」
セラエノは報告を聞きながら、返しに本音を入れてみたが、にべもなく却下された。
「残念」
返事は分かっていたとばかりに達観した顔で、吸い口の付いたパック状の携帯食料を吸う。中身は柑橘系の風味。無重力状態になっても飛散しないようにゼリー状だ。
【あ、いいな。あたしにもおくれ】
セラエノが携帯食料を食べているのを目聡く見て取り、アトマは両手を伸ばした。
「アトマはご飯食べる意味あるの?」
【味を見るの。学術的な興味だよ】
アトマは見てくれからして尋常の生物ではない。
妖精の姿は、アトマの本体である“骨格艦ジルヴァラ”が操る端末であって、極小のリアクターレプリカと流動金属でできた体は食事など必要ないはずである。
「学術的興味ねぇ……」
そう言いながらもセラエノは、頭の半分ほどもある吸い口をアトマに寄せると、中身を少しだけ押し出した。
そのオレンジ色をしたゼリーにかぶりつき、目を輝かせて「おいしい!」と喜んでいる姿は、とても学術研究には見えない。
【美味しいね。誰が作ったの?】
ヒューレイの学術的興味は目下、オレンジゼリーの味にあった。
「これ、ユーリが作ってくれたんだっけ?」
「そういえば、カシマのおばあちゃんから蜜柑を沢山いただいて……食べきれない分を保存食にしましたか」
と、ユーリは唇に指をあてて、思い出しながら答えた。
【カシマばーちゃんの蜜柑かぁ】