Turn02 セラエノ/4
「フィラディルフィア、VOIDから離脱、通常空間へ出現します」
満天の星を彩った漆黒のヴェールの隙間に、蒼い光と紫電を散らしながら、外宇宙船フィラディルフィアは“滑り出る”ように現れた。
全長約三十kmに及ぶ外宇宙船の船体は、幾つもの宇宙船や貨物ブロックを、骨格フレームで繋ぎ合わせた構造をしている。
外宇宙船の恒星間航行を支える転移航路は、超重力異相空間“VOID”を通過する。
そこは深淵と呼ばれる、超重力の泡が無数に存在する“宇宙の裏側”である。
深淵は、光、星間物質、そして時間すらも、捕まれば二度と出られぬ漆黒の底。
その超重力の泡の隙間に、偏向重力性星間物質浸透式超構造体化被膜“エーテルシュラウド”によって超構造体化し、偏向重力を操る“小さな惑星”たるストラリアクターに護られた宇宙船舶だけが、辛うじて通過可能な、重力の緩い隙間が存在する。
それこそが時間と空間を超越する宇宙の航路――“転移航路”
超重力の影響により、通常空間とVOIDとの相対時間は約一/九・四二時間。
光すらも重力に飲み込まれる真闇の中、位置位相が天文学的に“ズレて接続する”特性を持つVOIDを、航海士と呼ばれる特殊な精神経路の持ち主だけが読み解ける転移航路図の座標に従って通過する。
ストラリアクターを搭載した外宇宙船或いは骨格艦、転移航路図、そしてそれを読み解く航海士。その三つにより、人類は長距離恒星間航行を獲得したのだった。
外宇宙船フィラディルフィアは今、その転移航路から姿を現したのだ。