Turn02 セラエノ/3
「そういえば……偉大な高次精神生命体なのに、なんでまた嘘つき男なんて呼ばれているんでしょう?」
【――元々は、“宇宙の真理”とか“遍く知識”とか、そういう感じの概念を示す太陽系古語の一種だったみたい……だけど……】
「だけど?」
【“未来”について検索すると“必ず外れる”ことから、同音異語の、嘘つき男って呼ばれるようになったみたい……だけど?】
「ああ……そういう……」
セラエノはそれだけで納得したようだった。
「どういうことです?」
「ユーリは“君は明日、廊下で転ぶ”って言われたら、転ばないように気を付ける?」
「でしょうね……あ」
ユーリも気づいたようだった。
「そ。人に教えちゃったら、人はよりよい未来を目指して、未来が変わっちゃうわけ。良い結果が予測されたとしても、欲張ったり、或いはそのことを意識するだけで、微妙に未来が変わる……とかかな。それで嘘つき男。昔の学者は巧いこと言ったつもりかね」
くだらないジョークを聞いたという顔で、セラエノは笑う。
【そうか……未来の事象を変化させる意識、自我……それがあたしの生まれた理由……? なのかね? どうなの?】
その小さな呟きに、答えるものは居ない。
宇宙船舶の動力炉ストラリアクターに宿るコア達は、太陽系VOIDの底に存在するとされている高次精神生命体ブラフマンの眷属であり、末端存在。本来、自我や個性は存在しない。
その為、自我を獲得し“ヒューレイ”となったアトマは、極めて稀な存在なのだった。