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Turn02 セラエノ/2

 外宇宙船スターシップフィラディルフィア船長セラエノ=サンドリオンは、ボディラインに合わせてしつらえた戦闘宇宙服の上にコートを羽織ると、船長室を後にし、足早に航行指揮所ブリッジへと入った。


【セラエノ、おそいよ~】


 入るなり声が掛かる。

 肉声ではない。かといって機械音声でもない。ヒトの声帯ではないものから、ヒトの抑揚と情緒で発せられた声だった。

 二つある入り口の間、指揮所のメインスクリーンが見渡せる位置に据え付けられた船長席から、その声は聞こえてきた。


「アトマ。またヒューレイで遊んでるの?」


【だって、リアクターの中は退屈だし】


 船長席の手すりに座る小さな銀の影は、確かに人の少女の姿をしていた。

 菫色の髪にエメラルドの瞳。銀のボディスーツを纏うその腰からは一対の羽が生え、彼女がそれを羽ばたかせると、蒼い燐光を放ってフワリと飛んだ。


 蒼い燐光は星間物質エーテルの光。星間物質エーテルは重力を操る。

 浮遊するその姿はまるで物語に出てくる妖精のよう。


 彼女(?)は今から約六千年前、オリオンアームの辺境にあった人類を、外宇宙探索へと導いた高次精神生命体オーバーマインド“ブラフマン”の眷属、ストラコア。

 ストラコアは本来、知性体というよりは、ブラフマンから齎された“制御システム”に近い存在であると、長らく考えられていた。

 そのストラコアが数千年の時を経て、要因ははっきりとしていないものの“自我”に目覚めるケースがあり、その自我表現体を“ヒューレイ”と呼ぶ。


 それが彼女(?)だ。


「ヒューレイって、ストラコアの進化体なんだよね? それがどうして、リアクターの中が退屈になっちゃうわけ? ポンコツ?」


【ポンコツ言うな。ストラコアとしての機能がおかしくなったわけじゃないよ。人類だって、一日何にもない部屋に籠っていたら、退屈するでしょ?】


「それは退屈するというか、一種の拷問だわね……」


「ストラコアの中が“白い部屋”だとして、それはコアとしては不自由ないんですか?」


 船長席の横に立って控えていた眼鏡の女性――先ほどセラエノを呼び出したユーリ=レドブランシュが不思議そうに聞く。


 ストラコアに対する人類の一般認識では、高次精神生命体オーバーマインドブラフマンの眷属、或いはブラフマンの一部であると同時に、ストラリアクターのオペレーティングシステムであることが重要なので、航海士リフターであるユーリの疑問ももっともだ。


【普通のストラコアに自我はないから、自分から何かしようとはしないでしょ?】


「ヒューレイになると、自我が生まれて興味がわいて、いろいろ不自由になるわけか」


 セラエノが船長席に腰を下ろしながら、アトマの言葉尻を奪う。


【既知宇宙の全ての事象を記憶するブラフマンの大書庫(アーカイヴ)も、誰かが検索しないとただの物置なのよね。だからあたしたちを作ったんじゃないのかな。知らないけど】


「知らないけどって、まがりなりにも君たちの親分なのに。ひどい言いぐさ」


 そう言ってセラエノはクスリと笑った。


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