Turn01 カノエ/20
「なんか今日……変だったな、世良……いや変なのはいつも通りだけど」
自室のベッドに転がりながら、ヘヴンズハースのトレーラーを何気なく眺めていた。
【同梱の〈アトマ紀行〉は、ヒューレイであるアトマと共に、オリオンアームへと向うエクストラ・ストーリー】
【――オリオンアームには新たな惑星と新たな勢力が待ち受けています】
【――ヘヴンズハースに宿る始祖ブラフマンとの邂逅を果たすため、恒星歴六千年の過去を手繰るアトマの旅が始まる】
タブレットの画面上では、そんなトレーラーが次々と再生されている。
「プレゼントなんて柄にもないことして」
プレゼントと言っても、ヘヴンズハースのデジタルデータであるが。
「――まあ、いいか……」
今回の対戦はいい所まで行ったが“とっておきの思いつき”を失敗した以上、自分でも言った様に同じ手はもう使えない。
世良を倒す方法を、改めて模索する必要があった。
基本的な操作と戦術、システム固有の特殊な挙動や、推進による慣性とモーションのキャンセル、斬撃の連続性等々、基本的なところは庚も一通り習熟しているが、それは一般プレイヤーのレベルだ。
それでも、遠野ミスト常連のスパイクプレイヤーには何とか食い下がれるようになって来てはいる。
問題は世良そのものだった。
異様なまでの勝負強さ、粘り強さ、そして覇気や武威とでもいいたくなるような気迫。とても同い年の女子高生には見えない。
そもそも、ゲーム画面越しに殺気を飛ばせる女子高生がそこらにゴロゴロ居たら、それは怖すぎる話だ。
対戦ゲームのトッププレイヤーというものは、そういうものだ。と、今までは思っていたが、今日の世良を見て、その考えもすこし揺らいでいた。
勝負云々の前に、負けないことへの執念が尋常ではない。
「どういう人生送ってたら、ああなるんだかな……ゲームで死ぬこともないのにさ」
一方で学校での世良は、その性格や見目に反して、さほど目立たない。
人気はあるだろうし、思いを寄せている男子もいくらか知っているが、おおっぴらに話題に上がることはほとんどない。
その落差も、庚の想像力をかきたてた。
【――さあ、あなたもヒューレイ〈アトマ〉と共にオリオンアームを旅し、ブラフマン探索の旅へと旅立とう!】
何気なく流していたトレーラーが、丁度クライマックスを迎えたようだ。
流暢なあおり文句の後に、スレインズウォーカー社と、クラウンシェル筐体やソフトウェアの技術提供各社のロゴが流れていた。
「……寝よ」
ベッドに横になって考え事をしていたせいか、睡魔は程なく訪れた。