Turn01 カノエ/2
ヘヴンズハースはスレインズウォーカー社が提供するアーケードゲームである。
内容は密閉型筐体クラウンシェルと、アミューズメントセンター同士を繋ぐ専用回線を使った“多人数対戦型SFメカアクション”。
元々はメック系の射撃戦ゲームを主な対象とした、様々なタイトルを展開する予定のプラットフォーム型筐体だったが、立ち上げタイトルのヘヴンズハースが想定以上の人気を博したことと、後続タイトルの開発が難航していることもあって、事実上の専用筐体となっているらしい。
プレイヤーはロボット――直立時、全高百mに達する人型戦闘宇宙艦“骨格艦”を操り、未開の恒星系を開拓したり、商船を襲ったり、或いは骨格艦同士の決闘に明け暮れる、宇宙船の船長にして巨大人型ロボットの操縦者“ヘルムヘッダー”として戦う。
サイトトップには惑星の荒野に砂塵を巻き上げ、剣戟兵装を構え、今まさに激突しようとする骨格艦の姿が映し出されていた。
だが、その上にオーバーレイする形で表示されているのは、ゲームの主役であるところの骨格艦ではない。
“第十七期バージョンアップ・新規追加インテリア”と銘打たれてピックアップされている画像は、弾性のある質感と金属的な光沢をした材質のテクスチャ・マップで彩られたボディスーツを纏う、妖精の姿であった。
長く豊かで、鮮やかな菫色の髪にエメラルドの瞳。そして、やや無機質な表情。
特徴的なのはその腰の辺りから生えた羽で、丁度、骨格艦の可動式格納庫と同じ位置関係だ。
膨らんだ膝丈スカートは、大腿部の大型外装甲板を模したもののように見える。
骨格艦のシルエットに似て見えるのは、デザイナーの意図だろうか。
「インターフェースユニット〈アトマ〉。コックピット用アクセサリ。クラウンシェル関係のインテリアは久しぶりだね」
密閉型筐体クラウンシェルは、その名の通り二メートルほど上方、王冠のように設置された周囲三六〇度モニターの“クラウン”に、操作レバーやボタン、スイッチ類の付いた座席を迫り上げて、下部から差し込む形をしている。
搭乗と保全の為のインストラクターが付き、その大掛かりな構造から、アーケードゲーム掲示板の専用スレッドなどでは「アケ筐体と言うよりアトラクション施設じゃねえか、ネズミの国に帰れ」などという冗談が踊り、冗談には「マジかよスレイン最低だな」と返すのがお約束となっていた。
そのスレインは、提供会社であるスレインズウォーカー社のことではなく、プレイチケットや追加アクセサリの各種有料アイテム販売画面を担当しているインフォメーションキャラクター“闇商人スレイン”のこと。
大掛かりなクラウンシェル筐体のランニングコストを考えると、追加アイテムの料金設定は“業界的には”かなりの良心的な価格設定ではあるらしいのだが、ユーザー側はそんなことなど知った話ではなく、このメーカーの社名を冠した闇商人のおっさんは、事あるごとに最低野郎扱いをされているのであった。