Turn01 カノエ/19
――で。
「……完全に勝ったと思ったんだけどなぁ。なんなのアレ。ズルくない? あんな装備あったっけ?」
そう言って、庚はガックリと肩を落とした。
思い出すたびにガックリ来ている。あそこまで世良を追い込んで置きながら。そのショックは計り知れない。
「ズルクナイ、ズルクナイ」
対戦の話をすると、世良はさっきから完全に棒読みである。
「――まあ、最期は完全に運だったし、十回やったら、四回ぐらいは私が真っ二つだったと思うよ」
「次やったら、カモる気まんまんだろう世良……」
「そだね。あはは」
勝負は結局、世良の“奥の手”によって、渾身の一撃をカウンターされた庚の負けで決着が付いた。
「何時になったら勝てるんだか……」
自動ドアの向こうはもう夕闇も通り越して、夜の帳が下りていた。
遠野ミストの閉店時間にはまだ時間があるが、今日は庚の気力が尽きていた。会心の一撃を失敗してしまったので、当然と言えば当然だ。
それを見越した世良の一言で、今日の二人対戦会はお開きとなった。
「今日はお疲れ様」
「次は勝つ」
完全に負け惜しみだが、言うだけは言う。
「うん、楽しみにしてる」
そう言って世良は微笑んだが、後ろに居た庚からその表情は見えない。それはゲーム中の表情からは、想像が付かないほど柔らかいものだった。
自動ドアが開いて一歩外に出たところで、彼女ははたと足を止める。
「どした?」
「庚君……君は、負けず嫌いだよね?」
振り返った世良は、今までのどれよりも真剣な表情をしていた。
「どしたの、急に。捨てゲーはしない主義だけど……」
「何があっても諦めない?」
「なんだかよくわからないけど、がんばります、よ?」
質問の意図を測りかねつつも、雰囲気に飲まれて、当たり障りのないことを答えた。
「ん。よかった……じゃ、頼りにしてるよ、カノエ君」
「お、おう?」
そうして釈然としないまま、庚は世良と別れ、帰路に付いた。