Turn01 カノエ/18
「いいね。好きよ。そういう君」
完全に蕩けきった声でそんなことを言われて、庚は緊張の中で心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受ける。
その瞬間に攻撃されていたら、成すすべなくやられていただろう。危ない所であった。
「い、いきなり、何言い出すんだか」
「始めは暇つぶしだったんだけどねぇ……」
「ん?」
「でも今は、けっこう……」
世良の骨格艦が、半刃半柄鉈槍の丁度中央部、刃と柄の境目を持ち、くるりと半回転。重力刃側を地に向ける。
「何を――」
「君がさっき仕掛けようとした事だよ」
半刃半柄鉈槍の四角い切っ先が砲弾並みの速度で地面に撃ち込まれ、地を抉る轟音と共に、粉塵のエフェクトが爆発のように広がる。
光学視界が完全に塞がれた。
向こうからもこちらは土煙のエフェクトに紛れて見えないはずだが、世良のことだ、多少位置を変えた程度では当ててくる。そういう確信があった。
「クソッ! どうする……勝負を仕掛けるならここか? ――ここだな!?」
庚は前もって対世良用に用意していた骨格挙動を入力。対戦ゲームに置いて、奇策の九割は愚行。それは庚も知っている。
だが、相手はセオリーだけでは、到底倒せないほどの実力者。
「――やらないで負けるぐらいなら、やって笑われてやるさ!」
「何を企んでようと……」
世良の言葉に、砂塵が裂けた。
片腕に持った半刃半柄鉈槍を、竜巻のように振り回し、旋回跳躍しながらの旋回斬り。
N字骨格を限界まで伸ばした右腕の、長い柄の半刃半柄鉈槍が作る重力刃による竜巻の半径は、刃先まで約百五十m。
砂塵、丸ごと輪切りにできる攻撃範囲。
「――逃げ場は無いよ、庚君ッ!」
「高さが合ってたらねッ!」
鉈槍が宙を裂き、重力刃の旋風が“砂塵のみ”を切り裂いた。
旋回斬りの勢いで世良の骨格艦が、そのまま空中をたっぷり三回転半の後、左腕部を地についた格好で着地。シ足状のフレームが地面に爪を立て、食い込みながらも勢いを抑えきれず、地に爪あとを残して滑った。
「うそッ!」
驚愕に見開かれた世良の目に入ったのは、姿勢を落とし……と言うよりも、完全に地に伏した庚の骨格艦の姿だった。
地に伏した肉食獣のような構えで、片手八双にぶら下げた鍛錬鋼刃の刃を返す。
ただ芋虫のように屈んでいるわけではない。折りたたまれた骨格は、獲物を狙う豹のように引き絞られている。その姿勢は跳躍突撃の予備動作。
「頚椎か、腰椎フレームか……とにかく闇雲でも、しっかり急所は狙ってくるって“信じてたよ”僕の勝ちだ世良――!」
策のはまった庚は、柄にも無く大げさな勝利宣言をしながら、鍛錬鋼刃を閃かせた。