Turn01 カノエ/17
「――でえぃ、ちくしょうッ!」
それにしびれをきらした庚は、肩の大型外装甲板を使ってショルダータックルのような体当たりをかけ、半ば強引に距離を取る。
距離が開いてしまうと、跳躍突撃や、予備動作の必要な最大斬撃を狙われるが、延々と世良の絶え間ない攻撃を受け流し続けても、好き放題削られるだけだ。
「んふふ。すっごい楽しい」
世良は笑った。一体、どこをそう拗らせれば、女子高生がここまで凶暴な表情が作れるようになるのか。
そして、その表情が庚の心を鷲掴みにしていた。同年代の女子には作りえない、艶やかで満ち足りた貌が。
まあ、それはいい。
問題は――
「さて、どうやって倒したものか……」
競技性の高いゲームに置いて、実力と言うのは、相手よりも単に強いことを言うのではない。
本質的に拮抗する強さの者同士が競うのが、ゲームの本質であるからだ。
その内で、実力と言うのは“運の要素を廃する能力”である。ゲームの勝敗は詰るところ、敗者のミスによって決する。
操作ミス、コンボミス、アド損、読み負け……“崩し”や“押し付け”と言うプレイングもあるが、拮抗する対戦でそれをすれば必ず勝利に直結するというものは無い。
その為、すべてを読みきれない団体戦ならばともかく、一対一というものは、競技性が高くなれば高くなるほど、ミスを廃する実力差は覆り難くなる。
それは対戦ツールとして高い評価を受けるヘヴンズハースも、例外ではなかった。
骨格挙動を自分で詳細に設定でき、自由に組み合わせられる骨格艦は、上級者ともなると動きの無駄をとことん無くすことが出来る。
根本的に、骨格艦や剣戟兵装の性能は変えられないが、骨格フレームの動きを細かく制御し、ゲーム的には入力を受け付けない硬直状態であっても、移動慣性や応力伝導を駆使しての回避、果ては動体慣性だけで攻撃を行う者すら居るほどだ。
世良は既にその境地だが、庚はまだ基本や定番に頼った戦い方をしている。自由自在の域には到底及んでいない。
セオリーに忠実だったからこそ、短期間で一応は、世良と戦える強さを身につけたが、セオリーに頼る故に容易に動きも読まれ、勝てないでいた。
「コレだけやっても君は勝つ為に向ってくる。実力差は明白なのに」
「捨てゲーする奴は嫌いって言ったのは、世良じゃないか……まあ、勝てなくても仕方ないとか、そういう初めから諦めてるのは、僕も嫌いなんだけどさ」
重力刃がじりじりと回復し、まもなく最大になる。消費量から考えて、タイミングは殆ど同じ。