Turn01 カノエ/16
あっぶな……発生の早い鍛錬鋼刃じゃなかったら喰らってた?」
「んふふ、いいねいいね庚君……さっきのは結構本気でトドメ刺しに行ったんだけどな」
世良の表情は恍惚として、甘い吐息を吐くように言った。刺激に蕩けた表情を浮かべながら、艶やかな殺気を纏う。
いいとこのお嬢様だと思っている連中に見せてやりたい。完全に変態の表情である。
「このドスパイクめ」
状況さえ考えなければ中々見られない少女の痴態では有るが、同年代の少女がやっていい表情でもない様な気もする。
が、そんな世良に見とれる隙も逃さず、彼女の半刃半柄鉈槍は抜け目無く襲ってきた。
再び二人の重力刃が交わり、鈍い金属音のようなSEと共に、星間物質が弾け、紫電が刃を走り、蒼い閃光が宙を舞う。
「ふふ、それは庚君もでしょう?」
完全に出来上がっている世良の声は弾んでいた。強い相手と見るとこうなるらしい。
挑む庚としては喜ばしいことなのだが、喜んでいる暇など一瞬もなく、世良の骨格艦が放つ必殺の斬撃が絶え間なく襲ってくる。
「顔が完全に痴女になってますよ世良さん?」
「かな。ちょっと濡れてるかも」
「クラウンシェルん中の音声、カウンターの朱音さんに拾われてっからね?」
「朱音さん、今のオフレコでよろしく」
そんな人に聴かせられない会話の合間にも、連環斬撃が飛んでくる。
攻撃速度で優るはずの、鍛錬鋼刃を使っている庚の方が押されていた。
流れるように機動する世良の骨格艦は、斬り返す隙を潰し、攻撃を繋げる。
庚は、気迫に押され、押し付けられ、延々と受け流し続ける状況が続いていた。
被弾こそ無いものの、絶え間なく撃ち込まれる半刃半柄鉈槍の斬撃に、鍛錬鋼刃の重力刃がじりじりと削り取られていく。
「反撃ッ! のッ! 隙をッ! ……しまッ!」
――無理に反撃しようとして生まれた一瞬の隙。世良が見逃すはずもなく、左碗部の可動式外装甲板が弾け飛んだ。