Turn01 カノエ/14
世良の剣戟兵装は、いつも通りなら半刃半柄鉈槍。
連環斬撃はモーションが遅く使いづらいが、予備動作を伴う最大斬撃や跳躍突撃の威力が高い。
特に跳躍突撃に対する補正値は群を抜いて高く、闇討ちに向き、撃破も取りやすい事から、癖の強さが一部の人に人気という変わった武器だ。
狭い渓谷内は、長柄の半刃半柄鉈槍にとって不利にも思えるが、世良のような上級者に取っては、跳躍突撃の為の足場が立体的に使えると言う利点の方が大きい。
「待ち伏せする気満々だな……」
ヘヴンズハースは剣戟戦が売りのゲームであると明言されている為、ゲームの仕様も近接戦闘を軸にデザインされている。
それは裏を返すと、有利な位置に篭られれば、炙りだす手段が乏しいということ。
特に超構造体には重力刃や重力子弾以外が通用しないと言う設定の為、炸薬系が機能しない――
つまり通常の銃撃戦系ゲームのように、グレネードなどの爆発物を投げ込んで遮蔽から炙りだす、といった動きが出来ない。
庚が骨格艦を跳躍させると、足元に数百mに及ぶ粉塵のエフェクトを撒き散らし、計器の表示で数kmを飛翔した。
その一回の跳躍で渓谷のやや手前、小高い丘陵の上に着地する。
しかし、遮蔽に篭れば一方的に有利、などと言うゲームでは、移り変わりの激しいアーケードで長くブームメントを作り出せはしない。
「磁気加速式重力子弾射出器の“狙撃”は微妙かもしれないけど、“地形破壊”は結構、役に立つんだよ世良……」
庚はにやりと笑って、武装スイッチから磁気加速式重力子弾射出器をコール。
腰部の両脇へ移動した可動式格納庫が開き、両腕が双方から砲身部と機関部を引き出すと、その二つを接続し、全長にして百五十mあまりの超大型砲を構えた。
機関部を除いても砲身は百m超。比較として、海上戦艦全盛期の主砲が最大級のもので二十m超である。
百mを超える超大型砲で磁気加速された重力子弾を放てば、地形を変えることすら造作もない。
そしてヘヴンズハースのオブジェクト描画システムは、岩山を破壊することはおろか、地面を抉ることまでも可能。障害物から敵を炙りだすのではなく、障害物そのものを粉砕するのがヘヴンズハース流であった。
「“索敵”」
出来れば正確に位置を把握した上で撃ち込みたい。地形破壊の余波で体勢を崩すことが出来れば、かなり有利な状態で斬り込める。
骨格挙動にも寄るが、モーション速度はこちらの鍛錬鋼刃の方が速い。
不意を撃てれば、跳躍突撃や最大斬撃の予備動作は間に合わず、一方的に攻撃できるはず。というのが庚の算段だ。
【広域索敵を開始、敵骨格艦、捕捉。南西、二km】
「なッ!?」
前方の渓谷地帯に居たはずの、世良の骨格艦が、背後、それも極至近距離に反応した。