Turn01 カノエ/12
【コンクレイブモード。ツァーリ恒星系惑星レンドラ。シンザ同盟勢力圏。天候は熱波、砂塵。星間物質変換率九二%、良好。レンドラ大気圏へ突入、侵入角良好】
計器類の脇で〈アトマ〉がステージのインストを読み上げている。
「そこも全部喋るんだ。結構、音声データ入ってるね」
対戦相手である世良との通信は一旦途切れている。誰に言うでもなく庚はそんな事を呟いた。
ツァーリ星系の惑星レンドラはリューベック星団の地球型惑星。
予定座標が示す、赤い岩山と谷で形成された荒野タイプのフィールドは、特殊地形もなく癖が少ない。
実力差が明確に出やすい、一騎打ちや力比べには人気のフィールドだ。
【惑星レンドラ大気圏内へ進入、広域索敵開始。シートを頭部艦橋へ移動します】
――ゴウン――と揺れる演出の後、周囲の映像が下にスライドしていく。
映像が下がり、座席が昇っていく演出。
胸部居住区にあったシートが、骨格艦の頚椎フレームを通過して、頭部艦橋に移動される。
胸部居住区の映像は下にスライドして消え、上から全周囲モニターに囲まれたコックピットである頭部艦橋がスライドして、周囲に荒野の惑星の赤い大地を表示した。
映像上の頭部艦橋の広さは、乗用車の車内程。
操縦桿や、スイッチ類は筐体に付属する実物。一方、計器類やステータス表示などは映像で表示されていて、まるで本当にロボットのコックピットに座っているような感覚を覚える。
対戦ゲームにも関わらず、フレーバーユーザーにも好評を博しているのは、このアミューズメント的体験の部分も大きい。
「ステージ選択任せたら実力差がモロに出るステージ選ぶし……ほんと、容赦なしにボコりに来るもんなぁ」
そういう世良が好きではあるのだが。
とは言え、スパイクプレイヤーと永く付き合おうと言うのであれば、やはり相応の実力は示さねばならない。
骨格艦はまだ、空中を落下中。地面が凄い勢いで近づいて来る。
単なるステージのスタート演出なので、飛ばすことは出来るのだが、庚は何気なくそれを最後まで見ていた。
【偏向重力推進で制動を掛けます】
地面に激突寸前、骨格の表面を蒼い光が縦横に走り、直後に放たれた偏向重力推進が対地攻撃弾並みの轟爆と粉塵を撒き散らして制動。
砂と土と岩を一切合財巻き上げて、大気圏外からの落下の衝撃を相殺。大地にちょっとしたクレーターを形成。
そうして骨格艦は、赤い荒野に両の足で着陸した。
鳥の足のようなシ足状のフレームの先端だけが地面に接地し、踵から生える軸運動用のランディングフレームが同様に大地を捉え、船体を支える。
運動性はともかく、直立には不向きな接地面積なのだが、ストラリアクターの制御システム“ストラコア”が姿勢制御と偏向重力でバランスを取り、優雅に立つ。