〜不死の呪〜
外に出る時は、入るときより奇抜さが抜けていて、テナント募集の紙が燻ってい
た。
「ぁあ、陽…良かった陽。怪我ない…?私…私…足手纏いで、邪魔で…。」
半泣きにはなるかもと威厳タップリの階段を下りながら、予想はしていたが…しゃく
り上げるぼろ泣きとは…メガッさ困る。
「明結奈拘束されたりホルムアルデヒド吸わされたりしなかったか?」
「…グスンッ…無かったけど…ヒクッ…。」
最初からアキナンの手の上で踊らされてただけなんだ、歯痒くて情けない。
ピロリロリーン
「メールか…んッ?」
文章は短く母さんからだっだ。あなたは誰ですか?っておい、アドレスに名前記
入してないのか…息子がいること忘れてないか…。
「(そうだった、俺世界からデリートされてるんだ。どなたか俺の存在価値を表に
まとめて提出してくれぇ。)」
と限り無くか細い声で鬱憤を晴らし、最寄りのファミリーレストラン略してファ
ミレスに入店した。明結奈のためにも小賢しく且つ気障にモダンなイタリア料理
の店とか探していたのだが。
「ドリンクバー三つ下さい。」
俺は割引券を財布に札束のように仕込んでいるにも関わらず「女子の前では―」
と我慢して注文した。
「最寄りってのにも限界があるな。」
「だよね。」
明結奈は元気印を復帰させていて、可愛く笑窪を見せて自然な笑顔になっていた
♪
「ところで、相手は神獣・神族に属していたのですか?」
「だなぁ、その類いだ…でもさぁ、神族の位には当て嵌まらないだろうな。」
「どうして?」
「神族に封印されたって自分で吐露してたしな。」
俺は、グラスを持ってコーラを注ぎながら答えた。
「神族という種も下位の階級に分類されるんですよ。そこから、上流階級を目指
すのです。」
アキナンは、多数のジュースをミックスして何が主役か判定できない…見た目に
沿うと茶飯事だが、中身が真性の魔術師だからな侮れない。
「やけに詳しいな、身辺調査でもしたのか?」
「まぁ…そんなところです。」
「悪いけど、洗いざらい話してもらうぜ。こっちも、情報公表するんだからな。
」
また、苦い顔をしてアキナンは口を開く。
「言うなれば…神に羽をもぎ取られた堕天使ですかね!」
「だっからさ、小難しいの駄目なんだって国語とか超苦手でさ。」
紅茶を息継ぎなしで飲み干した明結奈が。
「神に調子に乗って近付き過ぎた天使は神の怒りを買い無惨にも羽をもぎ取られ
る、って意味かなぁ。」
「えぇ…今後この話題は御法度です。プライバシーを守る権利はありますから。
」
コーラを食道に流し込みつつ、頷いた。質問は、山積みだったんでね。
「このリングの事、タトゥーの能力や効果、残りの七体についての所在が聞きた
い。」
「理解しやすい三つ目から答えましょう。封印されたのは、古代の大陸で今では
離れ離れになってしまっています…つまり、昔は一点に結集していたモノは、現
在は大陸が分離し散らばっている。それを巡回して契約を結べということです。
」
「世界に?」
「えぇ、願ったり叶ったりですね。」
アホか、冬休みなんか数週間しかない。燦々とした砂浜から指定の砂粒を探すの
と同レベルの無謀さだ。
「その点では、庶務より大変かもしれませんね。」
かも、じゃねーよ。比になら無いだろうよ、庶務が何するのか学習してんのか?
「しかし…指環とタトゥーの詳細は…といいますか問題が。」
さっきから勿体つけてどうしたんだ、尿意に我慢出来ずおトイレに直行か?問題
と言えば、夕暮れ時に高校生男女が精神年齢詐称疑惑と曰く付きの幼児を連れて
ることだよ!
「トイレか?」
「このような公共の場では、情報が漏れる心配がありますので、物静かで人の気
配の薄いところが適所なのですが。」
「だったら、話が早く済むわ。家に来ればいいのよ、私の。」
「だっぁぁ大胆だなぁ…おい。」
「だってぇ…寂しいもん。毎日毎日屋敷に籠ってばっかりだし、陽たちと外出し
ても家じゃ独りになる。孤独なの…。」
物静かに明結奈の不満が噴火した。どの道…俺は異論は否定する理由がないから
。
「せっかくのお誘いなのですから、是非ともお邪魔させていて頂きます。」
だよな…俺は存在が世界表面的にないんだ、宿泊しても罰は当たらないだろう。
ぶぅあーっと移動時間を文脈から外し、小高氏の屋敷に潜入する。
「俺が昔遊んでた、豪華特大人形の家みたいな家で、よく見回すと和洋折衷だっ
たりするんだな。」
なぜか…俺の遊戯は人形やママごとセットにお化粧セットと歴代の玩具は、女モ
ノなのか人生の汚点だ!
「さてっと、そろそろさっきの質問の続篇だ。」
フカフカは良いとして…確かに一人では寂しくなるようなカシミヤの巨大ゆった
りソファ(特別に発注したんだとか)だなぁ。
「リングにタトゥーこれら二つは相互関係にあり、能力を補則しあっています。
零紋章は単体では用途はありませんがタトゥー『ヴェーネス』…総称がですが、
神人が記載した能力の文献の頭文字を合わせて『ヴェーネス』と呼ばれています
が、遠い昔にその資料も紛失してしまい詳細は僕も知りません。まぁ…二つの鍵
が現実に存在するとは驚きですが!」
「で、説明終わりかぁ?」
…解説は、終了した。あれだけ、騒ぎ立てて明結奈の豪邸まで来たのに。
「あんまり広くないから窮屈かもしれないけど寛いでぇ、今お茶用意するから。
」
「狭い…これが!?」
我が家の敷地かそれを以上なのに、窮屈なんて滅相も無い。明結奈の屋敷がスモ
ールサイズならばピラミッドとかサクラダファミリアとかアンコールワットとか
らへんがラージサイズだろうか?そうなれば俺の生まれ育った街は、しがない街
という位置付けになってしまう。
「ハーブティーにする、アールグレイにする?それとも…私にする…?」
古いセリフやのに…新鮮だぁ、足が宙に浮いてる。天使が見える…あっ、天使と
いうと羽の生えた赤ちゃんを想像する人も多いけど、あれは天使でも下級で無垢
・純粋の象徴とされているんだょ!
「明結奈で!あっ…いや玉露で。」
「えっ!?…玉露はないけど飲みたい?買ってこようか?」
「…うぅ…違うよ。」
「何が違うの?」
「なんとゆーか、紅茶貰おうかな。」
「そうだよね…で、アップルティー?アールグレイ?」
動揺が、喉仏や声帯を乱す。告白は、数回確かにされた、でも深い関係になった
ことなんか一度もない。鼓動が止まるくらい緊張して悶絶している俺。カッコ悪
っ…。
「アールぐレェイ!」
やばい声裏返った!
「青春ってやつですか?」
アキナンは、瞳孔を拡げ俺にズイッと興奮した面持ちで迫ってきた。
「うっせ!」
「ハハ冗談ですよ。」
アキナンには百パーセント太一の情報収集遺伝があるな。
「もう遅いから、泊まっていくんでしょ?」
「そりゃね、家に帰れるとしても…そう誘われると断らないし。」
「帰れないの?」
「だってよ〜ぉ、メールで誰って聞いてきた人達の住居に無断で入りでもしたら
家宅侵入で刑務所で泣くことになるのは目に見えてるよ。間抜けな真似はしない
よ。」
「逮捕されたら、僕が警察の車ごと灰燼にして刹那的速度で救助致します。」
「アキナン…犠牲者出したい?俺も灰燼に成り果ててるかもよ…。」
本当に成りそうだから身の毛がよだつ。前科一犯の日向 陽なんてあだ名が付きで
もしたら人方の面前を歩けない。
「夕食準備するね。」
「じゃ、俺も手伝う。」
「肉料理でいい?」
「おうッ、ふぁーすっげーな明結奈ん家の冷蔵庫は。」
「種類が?」
いや…整理整頓されてるなぁって思ったが言えない。俺の家では、残飯や冷凍食
品で溢れてるからな。
料理を作ることにしたのだか、明結奈の女の意地かお嬢様の嗜みなのか手が込ん
でる。
「紅茶で肉を煮る?」
「うん、血腥さがとれるんだよ。」
「ほぇー…どわっ!」
神出鬼没注意報発令だぁー。忍び音なく様子を伺うのやめろよぉ!ツッコミもア
ドリブも不可能になるから…。
「アキナン君どうしたの?」
「料理のいい香りが漂ってきたので…。」
フームとオヤジ臭く悩むような仕草をしてから…アドリブを閃いたらしい。
「紅茶と日本茶の違い分かりますか?」
当然、常識というか風評できいたことくらいはある。
「紅茶は発酵という工程を経た茶葉を指す、対して日本茶は発酵はせず代わりに
煎ったり乾燥させたりしたもの…って聞けぇ。」
アキナンは明結奈の耳元で早口で何かを捲し立てる。羨ましい…って焼餅?
「フンフン、りょーかい。」
「ワガママを承諾して下ってありがとうございます。」
「なんだって?」
「内緒なの、女は秘密や謎を持ってこそ魅力をますもんなの!」
ご尤もな理念ですが、隠し事しないって誓ったよね。でも、柔らかい表情だった
から安心だ。
「よしっ、下準備出来た。」
リズムをとりながら鼻歌を歌っているこんなに嬉しそうな明結奈は初めて見た。
三十分後―。
「合掌ッ、いっただっきまーす!」
取り分けられた、とろけるそうな肉にがっついた。
「ウンメェー、羊か山羊になりそうなくらい旨い。」
「えぇ、お店が開けそうです。文句いったら僕が十八番でビリッとイチコロです
よ。」
「カハッ…お前の思想か陰謀かそれとも…。」
どこかの阿呆のせいで噎せた。
「エッ…僕らの世界じゃ流行ってました、この雰囲気だと言い辛いのですが…常
識でした!」
お店の神様をも犠牲者に変えようと言うのか罰当たりが。やられる奴の顔が見て
みたい、顔面蒼白だろう…惨い。
「では、食事後は各自身体を休めてください。明日から活動を始めたるため済ま
せることは済ませておいてください。」
この魔術やら神様の世界には、休憩というものはあるのか?あっても刹那だろう
。
現在…深夜二時八分。
「…眠れん。居心地は抜群のはずなのに。トイレ行こ。」
枕が変わったら眠れなくなる論理かも…そんいや、世界に旅立つのがまだ信用で
きない。
ジャァァァァァァァァ
「あぁ…ビックリした。」
トイレの数にも驚いたが、便器に座った途端右目の視界の端に鈍く光る甲冑をキ
ャッチした。寝ぼけていたら、泣き叫んでるな。甲冑は何かのリラックス効果狙
ってんのかなぁ?
と非常識さに揉まれながら静寂に包まれた廊下を怖さを紛わすために闊歩してい
ると。
「…と不明な点はまだ多数ですが。」
「でも、タトゥーについての書籍も調べたんでしょ?」
「一応…これは古代文献にしか登録されていなかったのですが、三つの説や派が
確認されていました。第壱に神の化身が憑いた時の形跡、第弐に力そのものを描
写した印、第参に扉…。」
「扉…?」
「扉…とだけ記されていました。どの資料を摘んでも、無数の魑魅魍魎や架空の
獣が記載されているのですよ。」
「それも力の象徴?」
「ええ…まぁ。しかし、タトゥー『ヴェーネス』に限ってだけ新しい条件や能力
が追加されているのです。」
「………………。」
「不滅の呪い…森羅万象や諸行無常というありとあらゆるルールを黙殺する。中
には、背徳の呪印と呼ぶ輩までいる始末ですよ。」
「それって呪い…?不死身でしょ。」
「二次元のプログラムされたゲームではありません。力を宿すのと引き換えに死
を捨てる!来るべき時が来ない…まさに生ながらの地獄ですよ。」
「陽には?」
「言ってませんし、無駄に心に傷を負われて挫折や引き籠もられては、目もあて
られませんよ!」
「指環のほうは、タテューの付属物で効力はないのよね。」
「タトゥーです…指環は、本当に謎でしてね微弱な反応も感知していません。」
「でも、もう陽は…。」
「いえ、彼はまだ呪印を開封していません。しかし…形勢が悪いのは変わりませ
ん、もしも発動したりしたら…。」
「したら?」
「……生きた屍と化す…さらに自我を失い破壊の限りを尽くしてしまうらしいで
す。」
「……嘘よ。」
「僕だって、迷信だと思いたいのですが…。」
「今日はもう遅いから、寝ましょう。」
「はい、くれぐれも内密に。」
「言えないよ。」
「おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
俺が…生きた屍に!?でも、まだ開封してないってどういう意味だ?
「ますます眠れん。」
って言いつつも。
「グァーガァー…」
"………闇は怖い?"
怖い…光が欲しい。
"君は…溢れる光を持ってるよ涸れない青き光を。"
そっか…涸れない光を?拝見してみたいな……。
"君は…今怖くないの?神族の猛者でさえもが僕…僕らの導きの言葉を恐れたのに
。"
馴れたのかな…解らない…でも、懐かしい響き。
"君は…誰もが持っていて誰も持っていないものを知っているかい?"
…心や命それらに刻まれた誰にも干渉を許可しない記憶。
"覚えていてくれてたんだね。だったらご褒美に…僕らからことわりを君に。―人
間は闇を恐れ光を生み出した人間は無音を嫌い騒音で満たした…でも、闇は素晴
らしいもの…無を有に変貌させた光景をまた無にするから。なんせ僕らから光や
憤りから解放する…時には寂しくさせある時は孤独にするだからまた光が素晴ら
しく愛しいと希望を持てるんだよ。闇では、静かで虚しく、手探りで視界零によ
る恐怖だけど…そこから誕生する光もある無限とも等しい多面性に僕らや君達を
誘ってくれるんだ。闇は…無は、解放と思考の象徴だなんだ。"
恐れず闇を受け入れろと?
"そう、闇は光と共存している。闇が怖いのは本能ばかりではないんだ、植え付け
られた概念でもある。過去にも、光を臨んだ悪魔が光に滅ぼされた。惑わされな
いで…闇も光も一心同体なのだと紙一重だと……………助けて欲しい僕らを"
僕らをって一体誰なんだ?どうして俺なんだ…。
"僕らが待っていたから…僕らの光は君だ。また…………逢おうもう一人の僕。"
泣いてるのか…悲しくて、辛くて、孤独で……。あぁ、いつだって待ってるよ。
ジリッリリリリ―カリッ
「朝か……あれは夢だったんだよな…。」
「おはよう朝ご飯できてるよ……どしたん!?」
噛みながらも、殺気に似たオーラを帯びた勢いで駆け寄ってくる明結奈に俺はベ
ッドから転げ落ちそうになった。
「どうしたって?」
「涙…泣いたの?」
「ヘッ?……あれっ?止まらないどうしてかなぁ…。」
無意識に洪水のような涙が涙腺から溢れ流れる。拭いても拭いても涸れない涙…
。もう一人の僕ってクローンか偽物か?闇と光の存在って、やたらに印象に残っ
たことわりだった。
「うわっ、痛ッ…足攣った!」
「エッ!大丈夫?」
秘密を隠すけど、お相子だろ?