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〜儀式〜

儀式当日のことだ。俺は、寝具を頭から被り駄々をこねていた。

「嫌だよ、誰がこんな服着なきゃならないんだよ。どんなにポジティブに連想し

ても甲冑だね。」


実際は…派手に装飾した金属片だ。


「私服の上にでいいのです。」


「俺は宝石ジャラジャラ着けるのを拒否してるんじゃなぁい!」


「では何を?」


「何って、冠に附属してる兎耳とふあふあの丸い尻尾だよ。あそこだけ余計にリアルにかつ細部にまで凝った仕上がりになってやがる…。」


「兎耳は森羅万象の苦痛や願いや想いを聞き取ると言う意味が込められています

。」


「初代の思考か?尻尾まで着けるのか?」


「はい!尻尾は内に秘めた可愛らしさと謙虚さの象徴ですから。」

「なんちゅー強引な…誰だよ規準?」


「初代帝王クリスティーナ=アリ=セフォート様が基礎になられています。女性の帝王でした。」


「うわぁ、時代は刻々と移り変わってるんだょ。俺自分の私服だけでいく。」


「$%$#&\%。」


カタカチッ


「あぁぁぁぁぁぁ!」

頭にはピョコンと突き出た兎耳の冠と尻にはポヨンとふっくら兎尻尾がお目見えしている。


「ズルイぞ、魔法使いやがったな。脱げねぇー!」


「強制脱着術と人身密着術を併用してみました。強制脱着術は武装解除によく使用します。」


「だぁ恥ずかしい、絶対奴等笑うぞ。」


「笑う訳ないでしょう。それが正装なんですから。それに帝王は砕く『力』や守る『力』の他に笑わせる『力』が無ければ駄目ですよ。」


正しいことを言っているのだろうが全然慰めになってない。


「やらなきゃ、駄目なんだろ…なら行くかな。」


っても、どうやって儀式するんだ?調印式みたいなのか抱負を語る演説式なのか


「世界の称号を手中に修めに各地を周ります。」


唖然という言葉がクリティカルヒットするのではないか。世界の称号って手中に

修めるって悪魔か?


「帝王ですから、しっかりして僕も手伝いますから。」


「救いの手差し延べるなら、お前が順路を辿れ!」


「『オーバーファイル』を誰よりも早く契約してください。」


「オーバーファンタジー?」


「『オーバーファイル』です。天地風火水生機想のドラゴンと契約して頂きたいのです。八つの祠に此を奉って交渉してもらいますよ。」


「うん…アウトだろ。俺パスポート持ってないもん。」


「心配ご無用ですとも。パスポートは昨日僕が転顔術で陽さんの顔で発行しました。個人情報も!」


「生年月日から何までも?」


「ええ大成功です。」

「うわぁー…って今日とと飛び立つのか?」

「彼女も一緒に。」


「明結奈も!?権力者気取りかアキナン…お前誰よりも早く契約しろと呟いてたな。」


「バレてましたか、あなたも連呼していたように所詮は帝王候補なんです。候補は二千人勝者は二千分の一だけ。」


「おーいなんだかSF青春学園アドベンチャーストーリーを脱線してSFファンタジー行きに路線変わってないか?」


旅の途中に剣とか盾とか出るんじゃなかろうな。


「変なドラゴンの隻眼とか呼ばれる宝珠の存在はカケラほどもないだろうな。」


「よく御存じですね。素質がいかに優れ揺らぐことない意志を手懐けられている。御聡明に予習なされたのですね。」


感動に浸かってるところ悪いけど。


「その存在を教えろ!」


「『ドラゴニックアイ=リング』を契約土産に頂戴してください。」


「交渉ってのは―。」

「はいはい、時間稼ぎしてないで行きますよ。空港で彼女も待っていますからさぁ。」


「ぁぁ押すな。転送系の法陣は?」


「使ってもいいですけど、今の季節旅行ラッシュの空港ですよ。大勢の前に音も無く現われて一時的に無重力で浮遊していたら視線はマシンガンのように降り注ぎますよ。」


忠告通りです…はい。つかお前何処でそんな言葉とか比喩法盗んで来るんだ?


「あくまで地球上で生活している人間を演じるために努力しました。」


タクシーを拾いながらアキナンに話しかけた。


「元帝王候補も大変だな。補佐だなんて下手に回ってさ。」


「教育者として私の総てを授けますよ。」


アキナンは自らの腕を叩いた。


「風呂ってあっちにはあるのか?」


「日本ですよ、お風呂が旅先に不可欠なのはあなたが一番分かっているでしょう。」


「そりゃねぇ!」


さり気なく思考時間を延長しようとしたのに、アキナンが日本について詳しかったのは……予測範囲外だった…つかよぉ、日本にそんな大規模訓練施設あったか?


「△△駅までお願いします。」


金は?


「魔術で―。」


「偽装したのか!?」


「いえ呼び寄せましたよ。」


充分犯罪の領域じゃないかよぉ。目から涙が枯れずにずっと流れてるよ。逮捕されるのは時間の問題だろう。こんな話をしながら、変哲のない平凡過ぎるタクシーは駅に停車した。


「待ったか?」


今回は明結奈を待たせるハメになってしまい後味が悪い。


「じゃ、行こうか?」

「うん、新婚旅行みたいだね。」


腕を組んでおまけに顔を擦り付けてきて。大丈夫だろうか、この装束だぞ。


「ええ、魔装ですからこちらでみた映画で喩えるとならミスリルみたいな!」


「じゃ見えて…。」


「ませんょ…残念ですが。」


殴りたい殺気最高値オーラで伸してやる。大体この服の設計が壊れてる。


「母さんたちに何日も了承なく留守にしたりしたら行方不明者として張り出されるんじゃ?」



今になって気付く腑抜けさに未来を絶望しつつアキナンの回答を促す。


「はい、無問題です。記憶をすり替えましたよ。日本の面積であなたと接触した人々の。」


SFより怖いってより突拍子す過ぎて、恐怖の神経が麻痺ってきたかも…。


「明結奈はいいってか?」


「あたしは、自分の意思だし『力』に選ばれし者だしね。」


「凄いな、結束高めて行くぞって…最初はどこからだ?」


「チケットを渡し忘れてましたハハハ。」


半ばひったくるように幼いアキナンの手から取って素早く行き先を見る。


「近ッ!隣りの駅だろー…。」


「そうですが、何か問題がありますか?」


「ハハハなに言っちゃてんのアキナン身近にドラゴン居ないよ…大体ドラゴンが

設置なんかされてたら人逃げるだろ。」


「それは現地で話しましょう。」


もうペースを飲み込まれそう。乗車して車掌の注意を聞いていて最大の醍醐味問題に頭を捻った。


「近過ぎて…全然旅じゃない。」


明結奈も「そーだね。」と呑気に頷いていた。


「ボケましたか?魔法陣や魔術の効力を敷設した、いわば試練の迷宮…。何日かかるかは不明です。」


「あぁ。」


「もう一度教育したほうが宜しいですね。」

これからミッチリ魔術に関して特訓した。


「陽起きて。着いたみたいよ。」


…寝てないし、数分の間じゃ寝られねぇ!


「着いちまった隣駅!リアルに知ってるから違和感ありだ。」


「おはようございます、早速ですが祠に移動しましょう。まだ、ご不満ですか近場なので?」


いやもう別に…意識してないから。なんで知ってんの?


「あなたも帝王候補なの?まだ慣れてないようね。大丈夫よ、全員魔術が上手く使えるわけじゃないから。」



冬という季節を全く感じさせないタンクトップで豊満な胸を揺らしながら話す女性は悠長な日本語だった。海外系の外観に騙され裏切られた気分になる。


「彼女は、祠案内役のライナですよ。」


役ってなんだよ。免許また偽装か?


「もう今日は、宿で欠けた観光気分を補いなさい。」


「宝珠は早くとらなくちゃいけないじゃないのか?」


「心配性ね。ドラゴンは生きてるし不規則な生き物だから…まだ現われてないの

立ち往生ってものでさ。一番は一ヵ月待ち惚けよ。」


これには驚いたね。アキナンは予測していたんじゃないかとさえ思った。


「じゃ、休ませてもらおうょ!お腹減ったでしょ陽も?」


「だな、腹の虫が五月蠅いかも…朝喰ってなかった。」


「じゃ三名様御一行ホテルに案内致します。」


と言いながら…なんだ『テナント募集』って、半分廃墟じゃねーか。


「ホテルには程遠い外装なんスけど、看板にまだ微かに鵺杯スポーツストアて見

えるけど騙し絵かなんか?」


「陽さん、本当は寝てたんじゃないですか?説明した通り魔術に囲まれた地なん

です。」

幻覚術かとアキナンに尋ねるのは癪なのでお目付け役で案内役のライナに訊くと



「人除け法術なんです。ここは特に人通りが多いのでより強い術が蜘蛛の巣状に

張られています。ほらぁ…。」

話が長く内容がゴチャゴチャしてきたので簡潔にすると、解体工事の人何かは建

物に触れてしまうため怪我が絶えないとか―ならこの際サイキョーの結界を張っ

てしまえばいいじゃないかと言うのは扨置き…悲惨な事故を未然に防ぐために幽

霊が出るとデマをながしているらしい。


「でも、俺は聞いた事ないけどそんな噂。」

「………………。」


「アレ…ライナさん?」



「第三番地区そちらでは、警告が行き渡っていないと聞くが仕事をしているのか

?」


声色が低くなって怖いんですけど!


この人は、人知れず暗く重い不思議な力を発散してる気がする。裏か表かその一

面を見た時俺の命が縮むと予測した。暗涙モノだね…

「ほらぁ、二人共そんなガチガチに緊張しないで!待ち惚けしてるのもカップル

よ。」


「へぇー…。」


俺はまだ信じられない、普通は無理だ。トントンと料理のメニューが出てきてす

ぐに一番食べたい品目を決めるようなもんだ。


「私たち以外にもいたんだ。友達になれるかなぁ?」


「ぁあ、いや…なれるだろ!」


って明結奈違うだろ、臨機応変なのか…天然で信じやすいんだか。


「陽さん、まだこの段階で疑心暗鬼にならなくても平気ですよ!」

「疑うとか疑わないとかはもういんだ。」


「では何が?」


アキナンそれはな。


「つべこべ喋らず、中に入らせろ。」


「分りました。ライナさんお願いします!」

ライナは袖も無いくせに腕捲りをして何かを呟き始めた。


「この祠『火』に準ずる属性なり、我らを暖め、我らの糧、そして守護の炎、我

に道を示したまえ。」


呟き終えて刹那的速度でスポーツストアのショーウインドウからコンクリートの

壁を火炎が焼け爛れていき炎が二つに裂け道が生まれた。



「フレイムロード別名朱の海淵と呼ばれる。」


「この先にドラゴンが?」


「いえ、キャンプ施設ですよ。」


「キャンプ施設…フレイムロードとか豪勢な名前なのにその先にキャンプ施設だ

なんて府抜けいや間抜けだ。」

「馬鹿にしてはいけません。最後の安息と由来ともなった場所、最高のコンディ

ションで臨んでいただくためにも必要不可欠なのです。」


豪語してるし、実際の経験者だ。事実なのだろう…というか信じたい。


「キャンプ地では―。」


突然、アキナンの声が鼓膜に届かなくなり脳内が何かで侵蝕されていく感覚に陥

った。


《久々だな陽。》



誰なんだ…一体?暗闇から響くこの声は…。


《忘れたか…虚しいな…()を開けよ。》


暗闇じゃなくて、閉じていたのか…駄目だ怠くて瞼が重い。


《開け。》


でも…


《開けろ。》


分ったよ。


瞼を開くそれは簡単なことだ…でも目に飛び込んで来るのは。


絶望、絶叫、絶縁、心の記憶に刻まれた失いたい記憶の復活。


「ウガアアァァァァァァァァァァァァアァァァァアァァァアァ…」まだ頭はぐる

ぐると渦巻いて、吐き気を催す。全身の関節がインフルエンザの前兆の如く疼く

…疼く度に脳裏には発狂しそうな記憶が蘇る。


「…はぁ…はぁ……はぁ。」


「陽!?陽!しっかりしろ!」


明結奈か?……それにしてはやけにぶっきらぼうだなぁ。


「誰か救急車を!!」


俺は大丈夫なんだけど…いやぁ大事になってるな。


「ごめんごめんごめんごめんごめんな…陽俺がついてたのに……チクショー!」



これ…俺の事故った日だ…兄貴と公園に遊びに行って。


"腑甲斐ないか自分が、憎いか力ない己が、いたたまれないな…我々は放って置けない性分でな、汝に力を授けてやろう…しかしそれには双方の承認と契約印が必需なんだ。どうだ?"


「……契約だろが協定だろうが結んでやる!守る力があるなら……。」


"成立だなぁ…受諾された!契約の印それは汝の器だ。"


…これだ…この記憶だ…俺の所為で兄貴は。


"幼い顔をしているが、その心は真だな。免じて自我は残してやろう…では。"



嗄れ声は、徐々に生々しく力強く…威厳を増していく。ついに、魁偉な容貌を現

し兄貴を容器をむさぼるように喰い始める。


「やめてくれぇ゛ー!」


「陽さん、しっかりして下さい。」


「陽!」


「はぁ…はぁ…どうしたんだ?血相変えて?」


状況の判断が困難で、未だ夢うつつなのだろうか。兄貴の幻影が見える。


「兄貴か?」


「陽…何?誰?」


「混乱してらっしゃるのでしょう。呻いてましたし、動転しているはずです。」


整理していきだいぶ頭ン中がスッキリして、自分が意識を失ったところまで思い

出した。

「夢か?だよな。」


「大丈夫なの?」


何が大丈夫なのか俺には解らない、神経科医に行けってこと?


「じゃぁ、そろそろ契約に行く?」



「無茶よ、急がないんだからゆっくり休養とって、ねっ?」


「そうですよ、最高のコンディションでって言いましたよね。」


「でも、もうピンピンしてるし!」


パチンッ


「なっ…!?」


俺はバランスを崩しキャンプのベッドに倒れた。


「あ…明結奈??」


「ガタガタじゃない、私の平手打ちにも耐えられない身体で無茶苦茶よ。」



自分のことだ…解ってはいた。でも明結奈を心配させたくない、その一心だった

んだ…それでも明結奈は俺の本心を知ってた。いや、俺が鈍かったのかもしれな

い。教訓かもしれない……『中途半端な慰めは人を深く傷付ける』ってな。



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