2 少女と再会したで侍。
どうも旋風寺です。
この作品はエレメンタルガイアと違いグロテスクな表現も入れていきますのでお嫌いな方は感想に「バカヤロー」など書き込んでください。
パカッパカッパカッ。
街道を走る馬車から小気味良い音が聞こえる。蹄が煉瓦を叩く音、これも文明開化のなせる業なのか。天気は生憎の曇り空、だがそれが余計に音を響かせる。
パカッパカッ。おっと、馬車が通りすぎる所だった。
馬車は一目みただけで裕福な人物が乗っているとわかるほどの装飾。馬子にも衣装、御者にも衣装。青毛の馬は馬車に負けず凛々しい姿だった。
ではその中身は……
「オジキ、助かった」
そういえば主人公を名乗らせるのを忘れていた。この若者、黒堂勘助二十歳。右目に大きな傷を抱えている隻眼の男だ。体格はよく身長六尺五寸、侍である。
「勘助、何匹やった?」
世間話などする気が端からなく横から聞いたのは中虎晴信 三十五歳。
職業 警察、階級 少警視。勘助と同じくらい体格がいい白髪混じりの中年だ。斑の髪は虎のような顔と相成り職場内外から等しく恐れられている。では先程の小太りの警官はどうした?彼の反応は仕方ない。何せこの階級になったのは最近で写真もまだ一般的でない時代に初対面で気付くのは難しい。
「オジキ、いきなりそれはなかろぉ……久しぶりにあったんじゃ。ちょっとは世間話でもしようや」
「早く話せ」
溜め息を着いた勘助は指を折り数えた。
「……七つじゃ」
そうか と短く切った中虎は手に力を入れた。
「昨晩あった事件もそうなのか?」
「……。下には言っていないが特徴が一致している」
いつの間にかガタガタと揺れる空間から馬車は地面を走っているのだと感じることができた。
「まぁいいだろう。お前の言うとおり世間話をしよう。おばば様は元気か?」
「先月逝っちまった」
「……すまん」
「いいんじゃ!ババァも最後までみんなの事を心配しておったわ!『これ虎坊!』ババァが夢枕に言っておったわ」
馬車のなかで中虎は黙祷し小さき頃に世話になった母代わりを見送った。
「ご主人様、そろそろ」
御者の声に中虎は目を開いた。言っていた家が近くなっているのだろう。
「では、少警視様の屋敷を見せてもらおうか!」
馬車を遠くからみると周りは森であった。背の高い針葉樹が等間隔で並びそこにポツン、いやドカンと屋敷が建っていた。馬車からおりた勘助はその屋敷を見て大層驚いた。
立派な洋風の屋敷。窓の多さは部屋数を表すというが今見える南側には沢山の窓がつけられていては豪華さが一つ一つの窓から感じられた。
「ほぉ!立派じゃ!」
「あまりじろじろ見るな」
「良いではないか少警視殿~。大層給金も良いと見える~」
ギラリ……
さすがの勘助も虎に睨まれれば怯む。すぐさま顔を反らし口笛を吹き出した。
「お父様!!」
突然入口のドアが開き、そこからかわいらしい少女が姿を現した。現代で言う はいからさん の格好をした 少女が長い髪と袖を揺らしこちらに走ってきた。
少女の目には最初は父晴信しか見えていなかったのだが横にいる若者の視線に気付くと、ハッとした顔で言った。
「え?かんすけさま?勘助さまじゃありませんか?!」
「アキか!」
「勘助さまぁ!!」
中虎アキは晴信の娘で歳は十四。東京の女学校に通っているまだあどけなさが残る少女だ。長い髪を後ろで幅の広い大きな赤い髪留めで束ねている。目も大きく和装よりは洋装が似合う別品さんだ。
そんなアキが勘助に飛び込もうとするのを父である晴信は寸でのところで間に入った。
「アキ、突然失礼であろう……」
「だってお父様!勘助さまに久しぶりに会えたのですよ!アキは嬉しいです!」
娘の満面の笑みを見れて嬉しいがそれが勘助ありきだということに少々不安が残る。
「アキ、久しいな」
「はい!久しゅうございます。勘助さまもお元気そうでアキも嬉しいです!」
言った後でアキはハッ気付いたように屋敷のある一室を見た。
「勘助さまも呼ぶとはさすがお父様!さっ、いきましょう勘助さま!皆さん待っておられます!」
アキは左手で勘助の右手を握り腕を引いた。
「ま、待て待て!皆とは誰だ!」
「左近さまと慶次さま、他にも来るそうですよ!」
勘助の顔が歪む。なぜなら今言った名前だけで他に集まる男たちがわかってしまったからだ。
「そんな顔なさらないでください!アキはまた皆さまに会えて胸が高鳴ります!」
急かすようにアキは 右腕 を添える。それを見て勘助は一瞬心が痛んだがアキの顔が笑顔だった事に少し安心した。
「わ、わかった!」
少女は笑顔を咲かせ、また腕を引いた。若者は前を歩く少女の右腕を見た。着物の袖が風に靡くがその揺れ方は彼女の空白を表すようだった。
そう、彼女の右腕は肘から下がなかったのだ……
それを気にしまいと気丈に振る舞う彼女を傷付けた男の名を若者は知っていた。
それこそが若者の目的であり唯一殺したい男である。




