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1 警察署にて侍。

どうも旋風寺です。

ちょこちょこ投稿しますんで一個一個短いですがお付き合いください。

明治の東京、日本橋に大きな煉瓦仕立ての洋館がある。中世の貴族の屋敷のような外観に華やかさが溢れるその建物の中。


「だぁから!儂は人斬りじゃないと言っておろうがぁ!」


「いいや。貴様は廃刀令がでたこの時世に意味もなく刀を二本も差しておる。昨日起こった刀傷の死体、絶対に貴様の仕業だ!」


洋館の中身は警察署だった。その一室で鼻下に立派な髭を生やした小太りの警官が一人の若者を取り調べていた。若者は和装で髷を結い、右目には大きな傷を隠しきれない眼帯がしてあった。


「勘弁しろよぉ。儂は今日ここに着いたんじゃ。ましてや人なぞ斬りたくもないし……」


若者の顔がみるみる青くなっていく。


「お巡りさんわかるかい……人を切るっていうのは肉を割いて骨を砕くってことなんだ。皮膚にきっさきが当たればパァンと裂け繊維をブチブチと絶ち切っていく。骨まで届けばミシミシと歪む音がする。ピシッ!バキッと行けばいいが相手も生き物、動くだろう?一撃で仕留められないと後に待つのは痛みと恐怖。傷口から垂れる皮膚と血と体液。うぇえ……」


先程食べた握り飯が出ぬように口を押さえた若者に警官も呆れ顔だ。


「儂はそれを思うたびに殺しだけはせんと心に誓っておるのじゃ……。わかるじゃろ?」


ウップともう一度口に手を当てる若者に慌てて離れていく。


「わかった。わかったから!こっちまで気持ち悪いわ!しかしこちらとしても刀を差しておったお主を疑わずにはおられん。では昨日の夜は何処におった?」


「何処って、街道を歩いておった」


今度は警官の顔が青ざめていく。


「歩いていただと……?」


「おう」


「う、嘘をつけ!夜中に道など歩けるか!や、やはりお前が昨日の人斬りだな!」


机を叩き、興奮したように若者を指差す。


「だぁから違うって!!」


「き、貴様。警官を愚弄するのも程ほど………」


もう一度机を叩こうとする警官を止めるように入口の戸が叩かれた。


「誰だ!」


失礼します。と言って入ってきたのは新人らしい警官と高そうな羽織を纏った洋装の中年男性だった。


「誰だその男は!」


小太りの警官は興奮冷めやらぬ様子で中年の男性を見る。


「はっ!こちらは本部からいらっしゃった中虎なかとら少警視様です!」


「しょ、少警視……様。皆敬礼!!!!!」


部屋にいた三人の警官が一斉に立ち上がり敬礼した。中虎と呼ばれた中年の男性はゆっくりと部屋に入り同じく敬礼をする。大柄な体に威厳のある顔つき、白と黒に分かれた頭髪はまさしく虎を思い起こさせた。


「し、失礼しました!しかしっなぜ少警視様がこんな所に……」


「遅いぞオジキぃ」


小太りの警官の後ろで呑気な声が聞こえた。振り向けば机に体ごと倒れている若者が見えたが、上司を前に目を逸らすなど出来るはずもない。それに気になったのは自らの上司に対する失礼極まりない態度。


「失礼。この小僧は私の知り合いだ。心配するな、殺しなどせんよ」


鋭い目をしたまま低く重い言葉が部屋にのし掛かるように響く。


「は、はっ!!」


小太りの警官に焦りの色が見える。それもそうだ、上司の知り合いを捕まえてしまったのだから。


「いくぞ」


そう短く言った中虎が部屋を出ようとすると、すがるように小太りの警官が跪く。


「ど、どうか寛大な処置を!か、金ならあります!!どうか!!」


その言葉に振り返った中虎だがその目は一際厳しいものだった。


「何を言っている……。貴様はこいつが怪しいから捕まえたのであろう。怪しいこいつが悪い。それともなにか、上司の知り合いを捕まえたら自分の首が危ないと思ったか。しかもそれを金で解決するだと……」


中虎の視線が警官に重くのしかかる。


「私は嫌いだ」


そう言い残した中虎は戸の向こうに消えていった。


土下座をしたままの警官は顔を上げられなかった。恥を承知でここまでやったものの自分は終わった。そう感じていた。


「まあまあお巡りさん。気になさるな」


そんな警官の肩を若者は叩いた。


「オジキは義理には厚いが汚い事がめっぽう嫌いでな。でも心配いらん。後でちゃんと詫びれば拳骨一発で許してくれる!」


若者は戸の前に立つとふと忘れ物に気付いた。


「そういえば儂の刀は?」


「勘助ぇ!」


外から中虎の叫び声が聞こえる。


「オジキぃ!!儂の刀ぁ!!」


「馬鹿たれ!受け取って早よ来い!」


そう言われ若者は近くの警官に荷物を帰してもらいやっと警察署から出られたのである。

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