ライバル。5
「それは?」
「んー? これ? 会長から渡されたピッチっていうの。持ち運べる電話みたいなものだよ。それよりさ、ねっ、ちょっと付き合ってくんない? 少しだけでいいから」
下から、はにかみながら小さく首をかしげてくる千秋。特に断る理由も無かったので、少年は彼女についていくのだった。
* * * * * *
「青木さん……ですね? すみません、お待たせしてしまって」
日霊保本部。地上の一般人にも公開されているスペース内。その中のカフェにて、千秋は男性と少女に頭を下げた。
「いえ、他の方が言うには三十分くらいで着くっちゅう事やったんで、全然待ちませんでしたよ。しかしまさか……国内ランキング首位の方が、これほどまでに可憐やとは。どうです、この後、二人だけでディナーなど」
「あっ、いえ。ご遠慮いたします。娘さん、疲れているようなので」
ビキッと青筋を立てている千秋。今にも『まず自分の事より娘の事でしょ』とでも言わんばかりに返事をする。
「この度は、ほんまにお世話になりました。あれほど強力な残り五十匹のEsを、一度に相手出来る人がこの世に存在するなんて」
思い出したように礼を言いだす父親に、ようやく真面目に向かい合う千秋。
「いえ、今回、私はほとんど何も出来ませんでした。お礼なら、彼に言って下さい」
「えっ?」
「彼がいなかったら、今回ばかりは私も命を落としていました」
わけが分からないような顔をして、少年は千秋と男性の顔を見比べている。
「……彼は?」
「分からん。せやけどおとん、これだけは分かるで。ウチに憑いとったEsとは比べ物にならんわ」
「こ、こらボケ優、人をEs扱すんなや。すんません、どうもこいつ、憑かれてから二重人格のように『ウチは特一級霊師や』とか言いだす時もあるもんで」
切れ長の目を丸くして、千秋は少女に視線を合わせる。どこかで見た事があるような笑顔。そして、よく知っている空気。毎日のように顔を合わせて、そして毎日のように喧嘩して。ただ……
「えっ……? 優ちゃん、今いくつ?」
いつからか、その見慣れた笑顔が突然途切れていた。『千秋、いつか絶対、自分倒したるわ』が口癖の、千秋の親友。
「高校一年の十五歳。千秋、いつか絶対、自分倒したるわ! それまで、誰にも負けたらあかんで」