ライバル。3
「ごめんください。こっちに、私の同居人がいると思うんですけど」
「えっ?」
突然派出所に謎の金髪の少女が現れた。ふんわりと柔らかい匂いが、男くさい派出所を優しい花で埋めている。もう一人の方は学校へ行ったようだ。
「あっ、いたいた。ねぇねぇ、こんな所で脱いでなくって、早く学校行こうよ」
さも当然のように、全裸で座っている少年に視線を合わせるように屈んで、ニコッと微笑んだ。グロスも塗っていないのに艶やかな唇が突然目の前に現れる。
彼女は一瞬にして抱きしめられる距離まで近づいてきた。ものすごく緊張状態でありながらも、少年は身体を逸らすようなことはしていない。
(すごい……。ここまで整った顔立ちの人、見たことない)
ただ、彼の心臓は早鐘が打たれていた。心地のいい物。美人慣れしていないのか、一言も喋れなくなってしまっている。思わず視線が下へと行った。すると彼の視線の先、桧原村第一高校のセーラー服から覗く膨らみが、怪しい魅力を醸し出しているではないか。これにはもう、彼も瞳を閉じる他選択肢は無かった。鼻息で会話が出来るのなら鼻語ペラペラだろう。検定試験があるのならば鼻語検定二級は取れるはずだ。
「あっ、え、あ……ちょっと? 色々ツッコミ所が多くてどこを指摘したらいいのか分からないんだが。ていうか、キミは誰?」
「私、こういう者です」
巡査さんに名刺らしきものを礼儀正しく渡している。怪訝顔から真顔になり、滝汗を通り越して青ざめていっている。
「……たっ、たた、大変失礼いたしました!」
「そそ。分かればいいから。そんじゃ、失礼しまーす」
敬礼で外まで見送られた。少年は牢屋行きを免れたらしい。本当なら直接日霊保の関係者と話をしないといけないのだろうが、それじゃ自分の立場も危ういと感じたのだろう。巡査さんが見なかった事にすれば、この変質者は桧原村には存在しないのだ。
二人してコソコソ隠れながら学校まで移動する。こんな所をもし他の生徒や同僚に見つかったら、彼女の立場も危ういのだろうか。当然と言われれば当然だ。
「あのさ、こんな所で女性物の下着つけてたらすぐ捕まっちゃうよ?」
「えっ、でもこれ、あなたから貰った物なんですが」
「私は過去は振り返らない主義だから。ところで、アンタ中学生なの? 高校生なんだっけ? まぁ、聞くだけ無駄かな?」
彼は警察官とのやり取りを思い出し、
「思い出しました。僕は桧原村第一高校の生徒です。よかった、あなたが迎えに来てくれて。ただ、本当にごめんなさい。僕は、同居人であるあなたの事、全く覚えてないんです」