ライバル。2
太陽の光を当てて確認する少年。匂いを嗅いでみて、噛んでみている。そして食べ物とは違うという結論に至ったのだろう。すぐさま吐き出した。
「よかったですね、千秋先輩。食べられませんでしたよ」
「う、うん。それはそれで……なんか悔しいな」
足早に去った二人が前方から見ている事なんて全く気付かず、少年は興味津津に女性物の下着を縦から、横から、斜めから観察し、実際に装着してみて桧原村交番の前を横切った。
「……それで? 『このアイテムをどう使うのか分からない』と。そう言い張るんだな?」
「はい。ですがご安心ください。一つの仮説が僕の中に浮かびました。この紐の部分は肩につけるのではないかという結論に至り、そして、この小さなコブの部分は背中の翼を抑制するために使うものだ。そう思いました」
「ほぅ。なかなか面白い事を言うね。そして、その頭に被っている物は?」
少年の眼前に座っている巡査さんはイライラを隠しきれずに、書記しているボールペンをコツコツと机に鳴らしている。もちろん、この巡査さんがどうしてイライラしているのかも少年には分からない。戸惑いながらもとりあえず、彼は続きを話す事にした。
「優しい生地で出来ているため、赤子でも装備可能な兜だと認識しております。この兜なら、いつ角が生えてきても大丈夫なはずです。色があるという事も知り、戦では一瞬で色の判断をしないと身の危険を感じると思いました。いや、お恥ずかしい話ですが僕、名前も思い出せないので、これを一体何に使うのか――」
「お前ナメてんのか!」
「い、いえ! ナメてません! 噛んだだけです!」
怒鳴られた途端、お尻を浮かせながらびしぃ、と条件反射に背筋を伸ばしている。椅子に座ったまま、答える選択肢を間違ったと言わんばかりに冷や汗をダラダラと垂らして。
「で、キミは高校生なのか? この辺りの生徒なのか?」
「……はい、たぶん」
「どこだ? って、高校生なら桧原村第一高校しかないな……」
「……はい、たぶん」
「学校側に連絡するぞ。規則だ」
わけも分からず、少年は肩を落として巡査の夏服を見つめている。圧倒的な装備の違い。文字通り、完全なる丸裸とは全然違う。受話器片手にぴぽぱ、と鳴らして仏頂面してふんぞり返った。
「それ、どこで拾ったんですか?」
「はっ?」
巡査さんが顔を上げた時、引き戸を開ける音が室内に聞こえてくる。