ライバル。1
「……さてと」
早朝。どうしたものか、と少年は頭を抱えた。右を見ても左を見ても、そこにあるのは木、木、木。三つ合わせて森になるが、まさしくその通り。そこは森だった。
ただ、どうしてこんな濃霧がひどい森の中にいるのか。皆目見当もつかないらしい。以前の記憶が飛んでいるようだ。精神的な問題、内科的な問題、様々な点から自己分析してみても、どうやら違うらしい。
「まいりましたね、どうも」
ポツリと独り言を吐き、そして黙々と歩き続ける。
国道へと出た。道路といっても、彼にはそれが何なのかが分かっていない。木々を抜けた先にあった、舗装された道。今までしかめっ面で歩いていたが、歩きやすくなったのか表情が穏やかになった。
国道の中央線からは植物が生い茂っている。コンクリートはキャタピラの跡でデコボコだったが、歩く分には苦にならないようだ。
自転車で隣を通っていく学生たちは、少年に対し下劣な者を見るような目を配っている。
(あれ? 何か悪い事でもしてるのかな)
ホームレスのように段ボールを装備しているわけでもない。ただ、追い越していく学生たちの視線が害虫を見つけた時のような反応。
少年はますます理解に苦しんだ。眉間にしわを寄せて首をひねっている。
「とりあえず、服着て」
段ボールを装備していた方がまだ良かったらしい。産まれたままの姿で堂々と歩いている姿を見かねたのか、少年の背後から声がかかる。
「ごめん。女物しか持ってないから、下着だけだけど」
「……千秋先輩、この人を社会的に殺す気ですか」
「えっ、これ、僕にくれるんですか? ありがとうございます!」
謎の二人組は去っていく。別々の制服だ。高校生と中学生なのだろうか。
(なんて親切な人だったんだろう。きっと、神が導いて下さった人に違いない)
有難迷惑なだけだ。
「千秋先輩の性癖が分かりません。ご自分のですよね?」
「しょ、しょうがないでしょ? この辺りってコンビニ無いんだから!」
桃のように染まった顔を逸らされたままドンと胸にぶつけられた下着。ただ、彼にはそれすらも何が何だかよく分かっていなかった。三つの穴の開いた布。二つの小さな山と金属がある拘束具。
「……?」
おそらく、この二つの下着を原始人に見せたとしても、彼と同じ反応を取るだろう。