解禁、白銀の槍。1
雷鳴が轟く。
東京都桧原村。いかに日本の首都とはいえ、村は存在する。そこは人口が二千人足らずの小さな村だ。
丑の刻。電灯もないこの村で、星も見えない恐怖をスリルに変えながら一人の少女が悪魔たちと踊っていた。
「いいね、楽しくなってきた……!」
多勢に無勢。頬を掠める攻撃に血の味を覚えながら、少女は上空へ浮き、悪魔たちと距離を取った。
ここなら、存分に暴れられる。
全国四十七都道府県、そして更にここ、東京都桧原村にも悪魔や悪霊、悪意を持つ天使……通称【Es】を迎撃する要塞都市がある。
日本霊能保安協会。通称日霊保と呼ばれている機関は、新聞やテレビで毎日のように話題となっている。ただしかし、そこで働いているのはごく普通の少女だったりする。外見だけ。
それは一般人には理解出来ない職。ちょっと特殊なスキルが必要になる職業だ。十五歳にして特別国家公務員のその少女は、自分の身長の三倍はある白銀の豪槍を華奢な身体で振り回している。
一度に十数匹の悪魔たちの首をはねドヤ顔を決め込んでいたが、瞬時に背後を取られて地面へと叩きつけられた。落ち葉が盛大に巻き上がり、肺から相応の酸素が逃げていく。
『本当に応援はいらないんだな?』
「アンタは黙っててよ、ロリババァ……! この私が、たかが五十匹相手……!」
通信の回線が開いたと思った途端、ハスキーボイスが聞こえてきた。どうやら遠くから味方が見ているらしい。
『これは試験じゃない。実戦だぞ。命を無駄にするな。AAA級Esを五十匹相手にするなんて、お前は天才を通り越してバカなのか?』
「うるさい、気が散――」
ハッと少女は天空へ瞳を向けた。何もない。ただ気配だけはある。瞬間的に顔を逸らすと、彼女の耳元でとても嫌な音がした。もしこれが顔面に刺さっていたのなら、今頃は確実に死んでいただろう。ただ、ものすごく苦しそうだ。それもそのはず。上空から地面に叩き付けられた挙句、腹部に思いっきり馬乗りされたのだから。内臓が破裂していてもおかしくはない。
『奈津、行け。なんとしてでも生きて回収――』
「勝手に殺さないでよね……」
『――!』
「負けてらんないのよ、アンタたち親子に……!」
「ですが、先輩……このままじゃ本当に死にますよ。バトルジャンキーもいい加減にして下さい」
すぐ真横から別の少女の声。通信と被って肉声が聞こえてくる。どうやらすぐ近くに、もう一人いたようだ。厚い雲に覆われていて、声の主の姿は見えない。