拾われなかった桃
むかし、むかし。あるところにおじいさんと、おばあさんがおりました。
おじいさんは山にアレで、おばあさんは川へ洗濯に出かけました。
おばあさんが川で、おじいさんのふんどしを嫌々洗濯していたその時です。
おばあさんは異様な気配を感じ、ふと顔を上げると、なんと川上から大きな桃が、
おむすびコロコロどんぐりしょっと流れて来るではないですか!
「どんぶらこじゃないんだ……」
おばあさんは思いましたが、あまり気にしないようにしました。
おばあさんは手にしていたおじいさんのふんどしを、ぽいっとぱかりに放り出し、
流れてくる大きな桃に手を伸ばしました。
「ふんぬっ」
しかし桃は予想以上に重く、おばあさんには到底持ち上げられる代物ではありませんでした。
「くっ、ワシがあと20年若ければ……っ」
おばあさんは心底悔しがります。
そんなおばあさんを尻目に、先を流れるふんどしの後を追うように流れていく桃。
しかたがないと、おばあさんが家路へつこうとしたその時でした。
「ここなら釣れそうだな」
「だな」
そんな声に顔を向けて見れば、そこにはイケメンな青年達。みな釣り竿を手に川を眺めているではないですか。
選り取り見取りです。
「くぁぁぁあっ、ワシがあと40年若ければぁぁぁぁっ」
おばあさんは血の涙を流しながら悔しがりました。
途中で追いつき、その身にふんどしを巻きつけるように流れていく桃。
それから数日後、漁師の網にフヤケた大きな桃がかかりましたが、
「ケッ、やけに重いから大物かと思ったのに期待させやがって! クソがっ」
漁師は悪態をつき、ぺっと唾を吐き捨てると海へ蹴り捨ててしまいました。
それから数年後、角のない鬼が村々を荒らすようになりました。
その首には白いぼろ布がマフラーのように巻かれており、
「どうして拾ってくれなかったんだよぅ~! どうじてぇぇぇぇ」
と滂沱の涙を流しながら金棒を振るうその姿は、かなり病んでいたそうな。
おじいさんは今日も、山へアレをしに出かけます。
おしまい。
ふと思い浮かんだものを書きました。シュールな笑いが取れたら嬉しいな~……。