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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
最終章 〜悠久の愚者編(下)〜

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469/496

◆460 奇怪

「ほぉ、これは面白い。アズリーの魔力を感じる……だが、それだけだ。実力までアズリーに迫ったとは言えぬ。クククク。者ども、かかれ……!」


 ルシファーが指示を出すと同時、アイ・ドールは目から大きな魔力を持つ光線を放った。


「超攻撃特化のモンスターだ!! 油断するんじゃねぇぞ!!」


 トゥースの檄と共に、皆が動き始める。

 アイ・ドールは魔王ルシファーの身体から発生する変異体だった。

 ルシファーはそれを魔力を消費する事なく、何体も何体も生み出す。

 バラードとリナは上空から魔法や魔術、ブレスで皆を援護した。


「コノハさん! アズリーさんとポチさんの事、よろしくお願いしますね!」

「おうっ! この命一つでアズリーの傷が一つ減るのなら、いつでもいくらでもくれてやる!」


 フユ、ティファ、ナツ、ララはアズリーとポチを守るように囲い、回復と防御の姿勢を見せる。

 バルンがウォレンとオルネルを護衛するように動き、ウォレンとオルネルは遠方のアイ・ドールを狙う。

 最前線で戦うリーリア、トゥース、アイリーンもまた同じだった。

 全員が全員アズリーの魔力を使った究極限界(アルティリミット)状態。

 それだけの圧力だというのに、アイ・ドールの波は止まる事はなかった。

 ルシファーはギヴィンマジックを使い、瓦礫の上に腰掛けている。

 十二士を見下すように見ながら、薄気味悪い笑みを浮かべているばかりだ。


「弱いな。弱すぎる」


 ルシファーを見るトゥースの額に脂汗が滲む。


(こんな隠し技反則じゃねぇか……!)


 毎秒、ルシファーの身体から、十数のアイ・ドールが溢れてくるのだ。

 リーリアやトゥース、アイリーンがいくら強かろうとも、その波を掻き分ける事は難しかった。

 無数の光線と無数の魔法や魔術が飛び交い、中央最前線よりも激戦化したこの場は正に地獄と言えた。

 皆の敵意など意に介さない様子のルシファーは、南を見た。

 遠方の不自然な魔力の動きに気付いたのだ。


(……ふん、奴め。まったく、野心家よな)


 ルシファーが気付いた魔力の動きは、正に今大きく変わろうとしていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 激戦の気合いや怒号が遠く聞こえる地で、大きく息を乱す悪魔が一人。

 肩で息をし、ギヴィンマジックの上に乗りながら、自身の魔力の回復を図るのは、聖帝ハドルとイディア皇后の息子であるザッツ皇子(クリート)だった。


「おのれ……おのれおのれおのれおのれおのれっ!!」


 大地を拳で強く叩き、自身をここまで追いやったバルンたちへの怒りを募らせる。


「魔力さえ回復すれば、あのような奴らなど……!」


 歯を剥き出しにしながら言うクリート。

 そんなクリートの前に、もう一人の悪魔が現れる。

 クリートは、その悪魔が眼前に来るまで接近に気付く事が出来なかった。


「っ! な、何の用だっ!?」


 驚きの余り立ち上がるクリート。

 だが、その悪魔はクリートに反応する事なく、ただ大きなげっぷ(、、、)をして見せた。


「くっ! ふざけるなビリー(、、、)!」


 そう、悪魔とは(すなわ)ちビリー。

 天獣灰虎、ヴィオラ、ジャンヌの前から姿を消した後、ビリーはどこかへと消えた。

 それは、イディアの魔力低下を感知したからだった。


「何をしている?」


 ビリーはクリートを見下しながら言った。


「何ぃ!?」


 そして今度はクリートの傷や魔力を見ながら言った。


「何だ、また負けたのか(、、、、、、、)

「っ! 貴様っ!!」


 クリートが体内に残る魔力を放出しながら叫び、怒りを露わにする。

 しかし、それ以上の強い魔力により、クリートは大地に膝を突いてしまう。


「ぐっ!? な、何だ……!?」


 余りに突然の事で、クリートは理解出来ていなかった。

 その膨大なものが魔力であるという事を。その膨大な魔力がビリーから放出されているという事を。

 クリートはビリーを見上げ、ビリーは変わらずクリートを見下した。


「ビリー……貴様? 一体、何を……っ?」


 ビリーは答えない。

 しかし、次の瞬間、ビリーは自身の口の中に人差し指を突っ込み、こりこりと動かした。

 その(のち)、大地に吐き出される金属体。

 甲高い音を発して大地に落ちたその金属体を見て、クリートが驚愕する。


「そ、それは……っ!?」

「あぁ、やはり歯に挟まっていたか」

「お……おぉ……っ! これはっ!」


 クリートがよろよろと金属体に近付き、それを拾い上げる。

 歪み、折れ曲がりながらも、その金属体は指輪(、、)のように見えた。

 それは、黒のイシュタル(、、、、、、、)が着飾る時に用いる貴金属の一つだった。

 そして黒のイシュタルことイディア皇后が、今日この決戦の日に装着していた指輪だったのだ。


「何故……? 何故この指輪が貴様の口から出てくるっ!?」


 ビリーは答えない。

 ただ濃密な魔力を放出しながらクリートを見るだけだ。

 その悪魔の瞳は、まるでクリートを餌のように見るのだ。


「ふむ、やはり届かぬか……」


 ビリーは遠くで感じるルシファーの魔力を感じ、そう呟いた。


「答えぬか、ビリーッ!! ――っ!?」


 直後、クリートは気付く。

 悪魔化したビリーの右肩が、大きく隆起している事に。

 そして、その隆起した右肩は(いびつ)なカタチをしていた。

 まるで(かお)のような。まるで女の貌のような(、、、、、、、)。そんなビリーの異形とも呼べる肩を凝視して、クリートがようやく気付く。


「……は、はは……ぅぇ?」


 ビリーの右肩に見えた女の貌は、(まさ)しく皇后イディアの貌だった。

 そしてクリートは知る。何故ビリーの口からイディアの指輪が吐き出されたのかを。

 わなわなと震えるクリートの瞳から大きな雫が垂れる。

 憤怒など通り越したかのような絶対的な殺意をビリーに向け、睨む。

 対するビリーは、裂けそうな口を更に広げ、満面の笑みをクリートに見せながら言った。


「美味かったぞ、貴様の母(、、、、)は」


 次の瞬間、クリートの怒りは頂点を迎えた。


「ビリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」


 狂気溢れる奇声を割れんばかりに発し、全ての魔力と殺意をビリーに向けたクリート。

 そう、悪魔ビリーはイディアの魔力低下を感知し、アイリーンとウォレンの縛雷結界に捕まるイディアを連れ去った。

 そして、弱ったイディアを前に、ビリーは大口を開けたのだった。

 向上した魔力の中には、確かにイディアのソレが含まれている。クリートは母の魔力をビリーから感じ取り、更なる怒気を溢れさせた。

 殺意のままに、本能のままに繰り出すクリートの攻撃は、全てビリーが児戯の如くあしらう。高らかに笑いながら、クリートの攻撃をものともしないビリーは、遂に攻勢に出る。


「がぁっ!?」


 そしてクリートの右腕に噛みつき、噛み千切り、頬張る。

 クリートの腕の肉を咀嚼(そしゃく)しながら、ビリーが下品に言う。


「不味いな。ヘルエンペラーの肉(、、、、、、、、、)の方がまだマシだったぞ」

「貴様っ! ルシファー様の使い魔すらもっ!?」

「何を言っている。そのために育てたのだ。ポチ君に上手く倒される(、、、、、、、)ように調節するのは大変だったぞ? クククククッ!」


 キメラの研究をしたビリーにとって、自身をキメラ化させる事など、訳なかった。

 しかし、それは単純なキメラ化ではない。イディアを、ヘルエンペラーを体内に取り込んだビリーが最後に狙うのはこのクリート。

 クリートは涙目になりながらビリーに攻撃を放つも、その全てが受けられ、かわされてしまう。

 遂には左腕も食われたクリートは、両の膝を突き、天を仰ぐように言った。


「は、母上……」

「くくくくく、ようやく一緒になれるじゃないかっ!!」


 クリート最後の言葉は、虚空に消え。クリートの頭部はビリーの胃の中に消えた。


「お? おぉ!? おぉおおおおおっ!!」


 ビリーの左肩が隆起し、浮き上がるクリートの嘆きの貌(、、、、)

 それと共に、ビリーの魔力は遂にトゥースを超えた(、、、、、、、、)

 そればかりか、悠久の愚者アズリーに迫る勢いだった。

 吹き荒れる魔力に大きな喜びを見せるビリーが北の空を見る。


「さて、魔王様に顔を売って来なければな……!」


 ニヤリと笑うビリーが目指すは、魔王ルシファーと十二士が集う超最前線。

 その時、世界が暗黒に向かうかのように、太陽を隠したのだった。

ニコニコ漫画様で『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ‬ と、ポチの大冒険』第24話が更新されたようです。

是非是非コメントしてくださいませー!!

見に行くよ!! というか、ずっと見てるよ!!!

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