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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
最終章 〜悠久の愚者編(上)〜

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◆413 近付く歩み

 ―― 戦魔暦九十六年 七月三十日 未明 ――

 暗雲立ち込める王都レガリア。

 かつての活気に満ちたレガリアは存在せず、既に人気(ひとけ)は一切無い。

 王都レガリアの住民は、魔王の復活により激しい魔力の圧力に襲われていた。アズリーの(きわみ)化された魔法障壁が張り巡らされ、一時の安寧も束の間、ルシファーが魔王サタンを吸収した事により、再び民に憔悴が見え始めた。

 それはやはり、強大過ぎる魔王ルシファーの魔力に、少なからず触れてしまった影響である。

 ルシファーはアズリーの魔力障壁を破壊する事はなかった。これは、恒久的に人間を飼育する事を視野に入れた判断だった。

 その人間たちが、王都レガリアに存在しない。

 当然、秘密裏に行われた解放軍(レジスタンス)の救出作戦が理由である。

 魔王ルシファーとクリートがトウエッドを襲っている間に起こった電撃作戦。黒帝ウォレンの策が、ルシファーの策を利用する事だと知ったルシファーの胸中やいかに。


 ――王都レガリア城、謁見の間。


「……っ」


 玉座に腰掛けるルシファーの前に跪き、ただひたすらに震える者が一人。

 歪な異形の顔に溢れ出る脂汗。

 どこにも逃がさぬという魔王ルシファーの静かなる魔力。

 今回の作戦の実行者の一人であるクリートは、これから起きるであろうルシファーとの問答に恐怖し、気が気ではない様子。


「……」


 それは、魔王ルシファーの単なる鼻息であった。すんと鳴った鼻息と共に、クリートの身体が大きくビクつく。対して、ルシファーは虚空を眺めているだけである。

 ガタガタと震えるクリートの反応を、ルシファーが目の端で捉える。


「何をそんなに怯えている」


 静かで冷たい魔王の言葉。


「こ、この度の私の失態! 大変申し訳ございませんでした!! 我が責任は非常に重く、いかなる処罰も覚悟する所存でございます!!」


 額を床に強く付け、謝罪を述べるクリートの表情に余裕はない。

 呼吸は荒く、焦点は定まっていない。震える唇を噛み締め、目の前の戦慄を体現した存在の次なる言葉を恐る恐る待つ事しか出来ない。


「此度の一件、其の(ほう)に責はない」

「っ!? …………は?」


 魔王ルシファーの言葉に、クリートは間の抜けた声を漏らしてしまう。

 しかし、顔を上げた直後、クリートの恐怖はかつてないモノへと変わったのだった。

 謁見の間、レガリア城、王都レガリア、戦魔国を包むかのような巨大な魔力。大地は揺れ、レガリア城の床や壁、至る所に(ひび)や亀裂が入る。

 それは、魔王ルシファーの怒り以外のなにものでもなく、クリートは、身を守る亀のようにひれ伏しながら震えた。


「ひ……ヒッ……ッ!」


 轟音が響く城内。

 聞こえる衝撃音や甲高い音。

 その異常に気付き、ルシファーの配下たちが集まって来る。


「こ、これは……!?」


 イディアが見たのは、凄まじい魔力で覆われた、魔王ルシファーが陽炎のように歪む姿。


「……っ!」


 イディアに付き従って現れたレオンは、揺れる床に膝を落とす。


「……素晴らしい」


 駆け付けたビリーは、憧憬(どうけい)を目に宿し、嬉々とした様子でルシファーの動きを見守る。

 ルシファーの眼前で(うずくま)るクリートの動悸が激しくなる。

 すると、ルシファーがレガリア城内の天井を見上げた。


「っ!!」


 全ての怒りをそこにぶつけるかの如く、ルシファーの魔力砲は天を貫いた。落ちてくるはずの瓦礫すらも無に帰す程の高威力、高濃度の魔力砲。

 吹き抜けになった謁見の間に、再び静寂が訪れる。

 そして、静かなる怒りを見せていたルシファーが、いつもの表情へと戻る。


「招待状を出さねばならぬな」

「……は?」


 ボソりと呟いたルシファーの言葉は、近くにいたクリートしか拾わなかったが、クリートはその意味を理解していなかった。

 しかし、ルシファーが次に起こす行動が、命令である事は、即座に理解した。


「クリート」

「は、はい!」

「悪魔たちの戦力を整えろ。一体でも多くこのレガリアの戦線へ集めるのだ」

「かしこまりました!」


 次にルシファーが向いたのは、イディアとレオンの方だった。


「イディア」

「はっ!」

「先程の魔力を嗅ぎつけて各地のモンスターが集結するだろう。その統率をレオンと共に行え。生意気なモノは殺しても構わん」

「身命を賭して!」


 最後にルシファーが顔を向けたのは、ビリーの方だった。


「ビリー」

「何なりと……」

「ヘルエンペラーの仕上げを急げ。同時にアルファとベータの増産にかかれ」

(ただ)ちに!」


 四人が姿を消し指示された仕事に移る。

 ルシファーは玉座に腰を落ち着け、天に浮かぶ暗雲を見つめる。そして、誰もいない中空に薄ら笑いを見せた。


「全てを喰らう絶望。愚かな道化に相応しい舞台を整えてやる。魔王を倒さんと欲する光の勇士たち。相対するは……我らが魔王軍。クククク、貴様の隣に立つ愛する者も、貴様を羨望の瞳で見つめる信奉者も、全て呑み込んでくれる。重石を付けたまま泳ぎ、泳いで泳いで溺れそうになりながら辿り着いた岸辺には……貴様しか残っていないだろうなぁ…………アズリー?」


 魔王の低く響く笑い声は、徐々に大きくなり、レガリア中に響き渡るのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なぁ、オルネル。何でそんなに怒ってるんだ?」

「そうか、怒ってるように見えるか」


 アズリーは、魔法教室の広場にいたオルネルがワナワナと震えている理由について尋ねていた。


「それが怒ってなかったら一体何だっていうんだ」

「だー! もう! さっきのアレだよ! 何だったんだ、あのアズリー様御一行は!?」


 アズリーに指差して言い放つオルネル。

 オルネルの言葉から記憶を呼び起こそうとするアズリーが、顎先に手を添え、空を見る。


「もしかしてぇ……あぁ! リナたちの買い物に付き合わされたアレか!」

「そうだよ! この深刻な時に何で呑気にデートなんかしてるんだよ!? リナだけじゃない! ティファもフユも春華(はるはな)も!」

「いやいや、困ってたのはこっちなんだよ! わかってくれよ! こっちも被害者なんだって!」

「どういう意味だよ!?」

「何か俺の言葉が悪かったのか、リナたちを怒らせちゃってさ。その償いとかポチが言うもんだから、フユとティファも便乗しちゃって、最終的には春華に腕掴まれてエッド中の櫛屋巡りだよ。というか聞いてくれ!」

「…………」

「何で、櫛ってあんなに高いんだ……?」


 遠くでその会話を聞いていたリナ、ティファ、フユが恥ずかしそうに赤くなり縮こまる。

 そして、三人の近くにいるアイリーンがジロリとアズリーを睨む。

 アイリーンの鋭い視線以上に、怨讐の如き強く重い視線を向けるのが、はぐれ魔法士の……男共。


「お前は全人類の希望であると共に、全男子の敵である事が判明した。そういう事だな」

「……何でそうなるんだ?」


 首を傾げるアズリーだが、オルネルは冷ややかな視線しか送らない。

 アズリーが反対側に首を傾げたところで、オルネルはアズリーに背を向ける。


「さぁ、そんな話を聞くためにここに来たんじゃないんだ。教えてくれよ、究極限界(アルティリミット)っ」


 納得はいかなかった様子のアズリーだが、今日は魔法士たちが求めて止まない究極限界(アルティリミット)を教える時間。

 オルネルだけではない。ここには多くの魔法士たちが集結しているのだ。これを学ばない手はないと、アイリーンやウォレン、果てはナツまでもその場に集まったのだ。

 そんな皆の視線に気付いたアズリーは、恥ずかしさを誤魔化すために、一つだけ咳払いをする。


「……こほん。それじゃあやってみようか。あくまで命の危険が迫った時の緊急時の策だからな。二万そこらのMPじゃ、持って一分半がいいとこだ」


 皆の顔に緊張が走る。


「ほい、マジックシフト!」


 瞬間、アズリーの足下に魔法教室全体を覆うような巨大な魔法陣が形成される。これにより、アズリーはこの場にいる全魔法士の貯蔵庫(タンク)として自分の魔力を使わせようと考えたのだ。


「ほい、ギヴィンマジック!」


 更に発動した持続型魔力回(ギヴィン)復促進魔法(マジック)により、自分の魔力の枯渇が防がれる。


「さぁ、それじゃあそこのグループからいってみよう」


 決戦の時は近い。

 ルシファーの魔王軍は着実に戦力を増し、かつてない大戦を臭わせる。対して、全人類で構成された解放軍(レジスタンス)は、各々の役目は違えど、平和に向かい再び歩き始める。

 それが、どんなに険しい道となろうとも、人間たちは諦める訳にはいかない。誰より生き、誰より精進し、誰よりも辛い者が、今も尚明日を見て止まないのだ。

 そう、人間は歩み続ける。


 ――悠久の愚者アズリーと共に。

俺たちの旅はこれからだ!(つづく)


次回:414 旧黒帝の謎 を、宜しく・x・

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