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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆405 謁見

 ―― 戦魔暦九十六年 七月二十九日 午前九時 ――


 トウエッドの首都エッド――その南門には、屈強な戦士、魔法士たちが立ち、眼前に並ぶ歴戦の勇士たちと対峙していた。

 エッドの外壁上、外壁前には天獣である紫死鳥(ししちょう)灰虎(はいこ)黄龍(こうりゅう)黒亀こっきが守護獣のようにエッドを守っている。


「リナさーん! リナさんどこー!? リナさぁあああん!?」


 そんな中、戦魔国の王都守護勇士兵団の団長補佐であるエッグが意中の相手――リナの姿を探していた。しかし、南門付近にはトゥース、ブル、銀、白銀、エッドの猪共。各町村から集まった有能な戦士、魔法士しかいなかった。


「ったく、相変わらずだな、アイツは……」

「あれ助けたら……私、後悔しそう」

「静かに。使者殿に聞こえるぞ」

「へいへい、使者殿()ね……」


 ブルーツとベティーのエッグへの苦言を制止したブレイザー。

 使者と(おぼ)しき者は、フードを纏ったまま南門に近付く。


「これより我らが神殿に案内する」


 案内役を任命されたのは、エッドでも信の厚いチーム――エッドの猪共。

 そのリーダーであるイーガルが一歩前に出て使者に名乗る。


「トウエッド国代表チーム、リーダーのイーガルです。失礼ですが使者殿にはそのフードを外して頂きたく――」


 イーガルが全てを言い切る前に、使者はフードを外した。

 それは、灰色のローブを纏い、大柄で髭を蓄えた中年男だった。


「っ!? ……度重なる非礼申し訳ありません。使者殿の名を伺いたい」

「戦魔国十二士会より参った。六法士が一人――シュトッフェル(、、、、、、、)


 一瞬、皆の顔が強張る。

 曲者揃いの六法士の中で、()化面(かめん)と称されるシュトッフェル。その名を知らない者はいなかった。

 シュトッフェルの表情は笑顔のまま固まり、微動だにしない。


「あ、シュトッフェルのおっさん! 使者ってシュトッフェルのおっさんだったのか! 俺気付かなかったよ!」


 遠方から手を振るエッグ。勇士兵団はそれを静かに殴って止める。

 そんな雰囲気を目にして、トゥースが呟く。


「あいつら、自分たちが人質だと理解してねぇな?」

「だろうな。逃亡されて困るのは向こうだ」


 小声で呟くトゥース。使い魔であるブルも、声の調子をトゥースに合わせてその考えを肯定する。


「こちらも非礼を詫びますぞ。あれで十二士の一人だというのだから笑ってしまう」


 イーガルに向けられるシュトッフェルの顔。

 やはり顔はフードを取ってから微動だにしない。


「エッグ殿の勇猛さ、シュトッフェル殿の気高さ……お二方の勇名、このエッドにも届いております。お会い出来て光栄です」

「何、私は使者の務めを果たしに来たまで。……よろしいかな?」

「は! 神殿までご案内致します!」


 イーガル含む五人のチームメンバーがシュトッフェルを囲うように歩き、神殿を目指し歩き始める。


「スタートだ」


 そう呟いたのはトゥース。

 トゥースは静かに目を瞑り、念話連絡の魔術陣を発動させた。


『行ったぞ』

『使者はどなたです?』

『シュトッフェルってガキだ』

『えぇ!? シュトッフェル!? それって誰です!?』

『知らん。十二士の一人らしいぞ』

『マスター! 十二士の一人のシュトッフェルって人が使者さんらしいです!』

『……肉声で伝えろ』

『はい! お肉は大好きです!』


 トゥースの念話相手はポチ。


「……ったく、ポチじゃなくてもいいだろうに」

「仕方なかろう。薫には荷が重い。それに、アイツは今――」


 トゥースの愚痴に、ブルがフォローを入れる中、リードが組んでいた腕を外す。

 すると、ライアンがその肩を持つ。


「まだだリード。神殿までの約十五分……我らが動くのはその後だ」

「わ、わかってますよ長……」


 リードは再び腕を組み、勇士兵団を鋭い目付きで見ていた。


(あの中に、悪魔が……!)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――戦魔国の使者、シュトッフェルを待つ神殿。


「だから! お肉を強請(ねだ)れってトゥースさんが!」

「絶対そんな事言ってねぇよ! こんな時にあのトゥースがふざけるか!」

「あ、でも!」

「でもなんだよ!?」

「その前に何か言ってたような!?」

「おぉ、そうだよ! それが聞きたかったんだよ!」

「そうです! ジューシーなシュークリームがどうとか言ってました!」

「んなわけあるか! どんなシュークリームだそれ!?」

「食べてみたいじゃないですか! どんと来いですよ!」

「えぇい! 聞き直せ犬ッコロ!」

「ちゃんと伝えましたよ! 馬鹿マスター!」


 薫を挟み、アズリーとポチの二人はいつもの問答を繰り広げていた。

 そのやり取りを聞き、薫は零す。


「……なるほどね、十二士のシュトッフェルか」

「あ! そうです! その人です!」

「てめ! 何がジューシーなシュークリームだ!? 全然違うじゃねぇか!!」

(おおむ)ね合ってるじゃないですか!」

「戦時下だぞ!? 概ねじゃ困るんだよ!」

「腹が減っては戦は出来ないんですよ!」

「ご尤もだよ、まったく!」

「けど、無の化面シュトッフェルか。それが本当なら面倒だねぇ」


 薫は顔に脂汗をにじませながら呟く。


「お、お疲れですー?」


 そんな薫をポチが気遣う。


「いや、緊張だよ。逆に聞きたいけどアンタたちは大丈夫そうだね?」

「あ、いや。緊張はしてますけど、今までが今までですからね」


 アズリーの説明に薫は小さな笑みを見せる。


「ふふふふ、確かに……今までが緊張の連続。これくらいはへっちゃらか。いや、二人は知らない(、、、、)んだったね……」

「へ? 今何か言いました?」

「いんや、こっちの話さ」

「ですか!」


 ポチはぱあっと明るい表情を薫に見せた。


「まったく、二人と話してると、今が戦時下だって事を忘れてしまうね」


 薫の嬉しそうな愚痴(、、)に、アズリーは苦笑し、ポチはにぱっと笑った。

 直後、アズリーの目に鋭さが宿る。

 遅れてポチが気付き、二人は正面にある(ふすま)を睨むように見据えた。


「来たか……」


 薫が深呼吸をすると、襖の奥からイーガルの声が届いた。


『薫様、戦魔国が使者――十二士のシュトッフェル殿をご案内致しました』

「入って頂きなさい」

『はっ!』


 イーガルの返事の直後、アズリーたちの前にある襖が静かに開かれた。

 ゆっくりと入ってくるシュトッフェルを見て、ポチが声にならないような悲鳴を上げる。


「ひっ!?」


 余りにも気味の悪いシュトッフェルの表情に、ポチは思わず声を出してしまったのだ。犬狼というポチだからこそ、一切の変化の見えない氷のような顔を見て、恐怖を覚えたのだ。

 アズリーはポチの口を塞ぎ、乾いた笑いをもってシュトッフェルを迎えた。

 するとシュトッフェルは真顔のまま言った。


「使者を受け入れる際、トウエッドは犬を同席させるので?」


 これにはアズリーの顔も固まる。

 しかし、薫は焦りなどおくびにも出さないで堂々と言い切る。


「何か問題が?」


 シュトッフェルは薫の言葉を聞き、ほんの少しの沈黙を見せる。


「それがこの国の文化……という事であればそれは受け入れましょう。ふむ、挨拶が遅れましたな。十二士会より参りましたシュトッフェルにございます」

「トウエッド将軍代理、薫です」


 直後、アズリーの手を通し、再びポチから悲鳴が出る。

 一瞬で変わるシュトッフェルの表情。アズリー、ポチ、薫の三人の目が捉えたのは……シュトッフェルの怒りの顔。


(お人形みたいですー!?)

(これが無の化面シュトッフェルか……なんともまぁ……!)


 アズリーがシュトッフェルの表情を気味悪がる。


「さて、早速本題に入らせて頂きましょう。トウエッドにて当国の反乱軍を匿っているという話……本当でしょうかな? 本日はそれを確認させて頂きたく馳せ参じた次第」

「……さて、何の事かわかりかねますね」

「これは異な事を?」

「第一、戦魔国はそれをどう知り得たのですか? 我らも知らぬ情報を」


 とぼけて見せる薫の言葉には芯があり、アズリーたちへの信があった。

 いつ戦闘に発展しても、アズリーとポチが薫を助けるという信頼が。


「まさか、我がトウエッドに()でも紛れ込んでいるのですか?」

「はて、何の事か?」

「では、その情報はどこから? 誰からにございましょうか?」

「ある筋……としか申し上げられませんなぁ」

「なんとおかしい事ですか。まさか一国の代表が(かく)たる証拠なく、ここへいらしたのですか?」


 薫とシュトッフェルの問答は続く。

 そしてアズリーが気付く。その問答に中身がまるでない事に。


(おかしい。シュトッフェルはただ怒って帰ればいいだけ、決裂させればいいだけなのに? いや、違う。話の流れをコントロールしているのは薫だ。早く帰らせればいいのにそれをしない? 一体何故? 絶妙なところで決裂させない話運びをしている。まるで……時間を稼いでいる……?)


 それは、一瞬の出来事だった。

 話し巧みに流れをコントロールする薫に怒ったのか、はたまた薫の狙いに気付いたのか、シュトッフェルから強い魔力が発生したのだ。

 直後、シュトッフェルの口調が変わる。


「……まさか、トウエッドの巫女、薫がこう出るとは思わなかった」


 声の圧も、魔力の圧も、何もかもが変わっていく。

 そんな圧を受けながら、脂汗を大量に噴き出しながら、正面にいる悪魔(、、)への鋭い目付きを変えなかった薫が静かに、震えながら、恐怖を押し殺しながら呟く。


「……出番だよ、アズリー」

「「え?」」


 未だ状況を理解していない愚者とその使い魔。


「そいつはシュトッフェルじゃない」

「「え?」」


 直後、神殿の床を踏み抜き薫に迫ったのは――――


「クカカッ!」

「ぐっ!? ルシファー!?」


 ――――魔王を名乗る者だった。

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