397 再・迷宮へ
「そう言えば、イーガルたちはどうだった?」
「もう強いなんてもんじゃないわよ。歴史あるチームだけに、連携とかは私たちより圧倒的に上。白銀もいい勝負してたわ。でもやっぱり集団戦ともなれば、あちらに一日の長ありね」
「へぇ、そんなにか。のわりには、あまり悔しそうじゃないな?」
「アンタ、ちゃんと話聞いてる?」
「俺たちが負けたとは、ベティーは言ってないぞ」
ブレイザーの言葉に、俺もポチもハッとする。
「そういえばそうですね……」
「んじゃあ勝ったのか?」
「勝ったとも言っていない」
ブレイザーのヤツ、わざと言ってるんじゃないか?
俺はじとっとした目をブレイザーに向けるも、ブレイザーはただ黙っているだけだった。
「皆良い勝負してたわよ。レベル帯は似たようなものだけど、個々の技量では戦魔国側が有利だったわね」
確かに、モンスターの発生や被害に関しては、戦魔国の方が酷いと聞く。国によって戦士の特性が変わってくるのも頷けるか。
しかし、イーガルの指導能力には頭が下がるな。効率的かつ能動的に動かなければ、今の銀たちのレベルには追いつけなかっただろうに。ブレイザーやベティーの調子から見るに、どちらにとっても、良い刺激になったんだろう。
「おう、待たせたな」
「何だか面白そうな事があるんだってー?」
ベティーの念話連絡を受け、最初にやってきたのはリードとマナだった。
「疲れてるところ悪いな。仕事だ」
「ポチビタンデッド飲んだし問題ないわ。それより話聞かせてよ」
「あぁ、これ」
俺が持っていたガルムの手紙をマナに渡すと、それをのぞき込んだ二人は、揃って首を傾げる。
「レジアータ南の通りにある地に私財を隠したって書いてあるな」
「『長き迷宮の底の底に、ポーア、お前さんが欲しがる物を隠した。ついでにあの戦争で貢献したって事で、聖帝様からお宝を貰った。ついでにそれも隠した。お宝は誰かに奪われちまうかもしれねぇが、あっちの方は大丈夫だろう。』だって。これってどういう事?」
マナの問いに、俺たち苦笑する。
すると、ベティーが懐かしそうに過去を振り返った。
「あれは私たち三人とアズリーの出会いの事ね」
「あの時は我々がランクAで、アズリーがランクBだったか」
「ホント、あの時のマスターは頼りなくて、大変だったんですからっ」
「まぁ、否定は出来ないな。皆に迷惑ばっかりかけてたしな。三人には色々教わったもんだよ」
あれは俺たちの出会いの時、ベイラネーアの冒険者ギルドでダンカンから紹介された仕事だった。確か、笑う狐に襲われたりもしたんだよな。
目指す先はベイラネーアの北にある迷宮。
この書き方から察するに、ブルネアに住んでいたガルムは、あの戦争の後、聖都レガリアに住んだのかもしれない。聖都から見れば、あの場所は確かにレジアータの南。こう書くのも頷ける。
「そんで、そこには一体何があるんだよ、リーダー?」
「我々が潜った時、確かに財宝は手に入れた。無論、それは依頼主に渡す契約だったが、財宝を閉じ込めていた檻は……今もまだあそこに残っているはずだ」
リードの質問を答えたブレイザーだったが、二人は未だ要領を得ない様子。
「んもう、檻だけじゃわからないわよ、ブレイザー」
「む、そうか。……その檻はある金属で出来ている」
言いながら、ブレイザーは俺の持つ杖を見たのだ。
すると、二人はようやく手紙の意味を知った。
「「あっ! ドリニウム鋼!」」
そう、俺のドリニウム・ロッドと同じ古代の金属――ドリニウム鉱石。ガルムはそれを鍛え上げドリニウム鋼にし、檻に加工した。
「……ん、他の皆も来たみたいだな」
「え? あ、本当ですー!」
ポチも気付き、遅れてブレイザーたちが気付く。
最初に姿を見せたのはライアンだった。
「遅れて申し訳ありません。さて、どちらに向かうのでしょうか?」
ブレイザーとベティー、そして俺とポチが顔を見合わせる。
「「帰らずの迷宮へ!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ララの空間転移魔法陣により、俺たちはレジアータへやってきた。
メンバーはブルーツと春華のいない銀全員と、俺とポチ。そしてララとツァルも一緒に付いて来た。
といっても、すぐに帰らずの迷宮に向かう訳ではない。
陽も傾いてきたので、今日はレジアータで宿をとる事になった。
トウエッドで休めばいい話なのだが、ララ、ナツ、そして何故かポチに強請られては、皆妥協するしかなかった。
銀はミーティング。俺はポチと共に食事に出かける事になった。
「マスター! あそこ行きましょう! あそこ!」
「夕飯までお前が決めるのかよ!」
「マスターが言ったんじゃないですか!」
はて? 俺が一体ポチに何を言ったというのだろう?
ポチに連れられてやってきたお店は、もの凄く古ぼけた――食事処。
ふむ、段々と思い出してきたぞ? 確か、サガンに会いに行く前にこのレジアータに寄ったんだった。段々思い出してきた。店の名前は……――、
「「ディルムッドキッチン」」
俺の曖昧な記憶と、ポチの明確な記憶が重なる。
「そうだそうだ。確かにここはディルムッドキッチンだった」
「む、マスターが『現代でも営業してる可能性は高い』って言ったんですよ! 忘れちゃったんですか!?」
なるほど、ポチが強請った理由はこの店か。
「いや、確かに覚えてるけどな……?」
夜とはいえ、まだ十九時だ。
それにしては客が少ない。稼ぎ時なのに二人しかいない――って、
「何だ、ララにツァルさんじゃないですか」
「おー、アズリーもここかー。ポチ! ポチここ!」
「お任せください! さぁ、食べますよ!」
準備の早いヤツだ、まったく。
「「魔王復活が己が身に降りかかるも、営業しているとは中々の剛胆。そうは思いませんかな、アズリー殿?」」
「あぁ、そういえばそうでしたね。レジアータの防魔障壁は最後になってしまったんですが……」
「「人の可能性を感じますな。さぁ、我々はこちらで食しましょう」」
ツァルに言われるがまま、ポチとララの席から少し離れた席に座った俺。
はて、何か話でもあるのだろうか?
確かに俺も、戦魔帝サガンの事は少し話したいとは思っていた。
やがて飲み物が運ばれ、瑞々しい野菜がふんだんに使われた創作料理を楽しんだ。
しかし、この味……どこかで?
「「どうかね? ここの食事は?」」
「あ、いえ。とても美味しいです」
「「そうだろう。私とララの『ららふぁ~む』で採れる野菜や果物は、全てここへ運ばれる」」
「あー、やっぱりそうですか。味に覚えがあったので、気になってました」
「「あちらのポチ殿の話では、過去にもここへ来た様子」」
「えぇ、でも今の方が断然美味しいです。味付けも進化してますし、何よりお二人の作った野菜が更に味を引き立ててます」
「「ふふふふ、そうか。主人もさぞかし喜ぶだろう」」
ツァルはカウンターの奥にいる優しそうな男を見る。
ここへ食事を運んだのも料理をしているのも彼。そしてツァルの視線。つまり彼がここ「ディルムッドキッチン」の主人という訳だ。
主人はララとポチの会話に交ざり、とても楽しそうに仕事をしている。
「「彼の奥方は子供を産んですぐ、亡くなったそうだ」」
唐突に重い話をしてきたな。
「いきなりですね」
「「そうでもない。これは重要な話だよ、アズリー殿」」
「というと?」
「「私が独自に調べたのだがね?」」
「はぁ?」
「「あれは、ララの父親だ」」
「ぶふぁ!?」
俺はツァルに向かって口の中のモノを全て噴き出してしまった。
しかし、ツァルはそれを予期していたかのようにかるくかわした。
だが、しかし……待て。
なんだって?
今日は一話のみの投稿です。
明日か明後日には二話あげたいと思います。




