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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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039 バラードの乱

 リナの指示を求めたバラードが鋭い目つきでオルネルをけん制している。

 蒼い瞳がオルネルを捉え、その動きを確実に御している。

 これは蛙を睨んだ蛇、蛇に睨まれた蛙だな。


「くっ!」


 オルネルが焦りながらも重いプレッシャーに耐えている。

 ゆっくり上がった手が震えながら宙図を始める。


「フリーズファイアッ!」


 中級系火魔法。

 冷たい炎と言われる竜族に効果のある魔法だ。これをバラードはどうする?


 パンッ


 暖簾(のれん)をかきわけるように弾いたぞアイツ。


「なんだあの戦闘力は」

「わ、私にだってあれくらい出来ますよっ」

「お前はレベル100だろ、バラードのレベルは……」


 すぐに鑑定眼鏡を発動してバラードを視る。


 ――――――――――――――――――――

 バラード

 LV:18

 HP:1413

 MP:368

 EXP:18020

 特殊:ブレス・空間干渉

 称号:四翼の竜・上級使い魔・ランクB

 ――――――――――――――――――――


 ざ、タフネス。

 なんだあの生命力は?

 およそレベル18のHPじゃないな。空間干渉は俺の部屋の窓を開けたあの超能力の事か。

 ランクB相当の実力って事か。モンスターならこの称号は付いて然るべきか。ポチは動物だからランクの称号が当てられない。

 ここで差が出ているのもあるが、何よりも既に上級使い魔ってところが引っかかる。

 やはり頭が良いからか。なんて羨ましいんだ、リナッ!


「今、私に対してなんか失礼な事考えませんでした?」

「今じゃない。常にだ!」

「奇遇ですね、私もです!」

「なんて使い魔だ!」

「とんだマスターですよ!」

「それより来月、バラード(あいつ)どうやって倒すんだよ。絶対強敵だぞっ」

「アズリーって人がきっとなんとかしますよっ」


 なんだ、それなら安心――


「――な訳ねーだろ!」

「あ、リナさんが動きますよ!」


 まったく、これ以上オルネルを虐めたら可哀想じゃないか?

 あれ、リナの顔が……いつもより怖いぞ?


「今までアズリーさんにしてきた行いを少しだけお返ししますっ!」


 なるほど、俺への虐め行為がリナの方に溜まってたみたいだな。

 まぁ、「少しだけ」ってところがリナらしいけど。


「あ、アジュリーしゃまー! ポチしゃーん! お久しぶりでしゅー!」


 あんな図体で可愛らしく手を振ってる。

 ま、そこは生後数ヶ月って事か。


「なんでマスターだけ様付けで呼ばれてるんですかっ!」

「ふ、あいつはわかってるんだよ。俺とポチの器の違いをな」


 しかしやたらと注目を集めてしまったな。

 まったく、皆試合に集中しろよ。


「シールド! マジックシールド!」


 ポチのやかましい反撃が起こる前に、オルネルが先に動いた。

 やはり少ない魔力でもここは固めるか。


「スピードアップ!」


 リナがバラードに速度上昇魔法を掛けた。


「うっきゃー! アジュリーしゃまの仇ーっ!」


 勝手に殺されたぞ。

 バラードの接近にオルネルが跳躍して後退。だが、バラードは駆けながらブレスを吐いた!

 火色のブレスがオルネルを捉える。


「っだあっ!」


 片手で杖を回転させブレスを受ける。しかしその威力を完全に抑える事は出来ない。両手にすれば……いやっ、


「バーストッ!」


 杖の回転力が向上。やるなアイツ。

 上手くブレスを受け切ったオルネルがホッとしたのも束の間、背後にはリナが回り込んでいた。


「――のほい、サンダー!」

「ぐぁっ!」


 直撃し、オルネルは不安定な着地を強いられる。

 息が切れているが、前方から迫るバラードを視界に捉えるとすぐにクロスウィンドを放った。

 確かにこの距離ならスウィフトマジックに頼るしかない。


 パンッ


 ……今度ははたき落としたな。とんでもない竜だ。


「うきゃー!」

「はあっ!」

「くっ!」


 オルネルが両目を閉じ、リナの杖の刃と、バラードの人差し指の爪が首に当てられる。


 その時、

「勝負ありっ!」


 ビリーの試合終了の声が魔育館に響く。


「「「うぉおおおおっ!! すげぇーっ!!」」」


 全校生徒の大きな声が波となって辺りを包んだ。

 使い魔で差が付いたが、それが無ければ確実にオルネルの勝ちだっただろう。

 オルネルの実力はこの段階で三年生の並以上か。片手での宙図に、あの杖術、そして戦闘の状況判断能力。バラードが召喚された後の対処。どれをとっても素晴らしい。

 首席は伊達じゃないって事だな。


 対してリナ。

 杖の性能差をバラードで補ったか。もちろん手を借りずに勝つ事を望んでいただろうが、それ程までに負けられない戦いだったという事か。

 ここ数ヶ月は普通の教養にも力を入れてたから仕方ないが、バラードを召喚するまでの健闘は大したものだった。

 オルネルが使い魔を手に入れたら勝負はわからないだろうな。


 あれ、そういえば入学試験の時、アイリーンだかトレースが、俺以外に使い魔持ちの魔法士が後一人いるとか言ってたような?

 一年生にそんな奴いたっけ?


「マスター、マスター。バラードどうやって倒すんです?」

「ん、あぁ……とりあえず対策は考えておくよ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その日の夜、俺とポチは、また寮を抜け出し、ベイラネーアの冒険者ギルドへ来ていた。

 簡単な討伐を済ませた後、ブレイザー達を見かけたので、現状の報告と、親善試合の事を話そうと思ってたのでちょうど良かった。


「――という訳で、弟子との親善試合が決定しましたっ!」

「「「乾杯っ!」」」


 エールの入ったジョッキがカツンと音を鳴らす。

 銀のメンバー三人と、ダンカンは自分の事のように喜んでくれる。

 確かに俺も嬉しいが、それを喜んでくれる仲間がいるのも嬉しいものだ。

 こういったのは確かに久しぶりだな。


「でもホント、リナちゃん頑張ってるわよね〜。そう遠くないうちにランクBのテスト受けられるかもしれないわよ?」

「これは師匠も負けてられないな?」

「本当ですよ。まさか使い魔を実用段階で召喚出来ると思いませんでした……」

「リナちゃんならこのギルドでも有名だからな。人を惹きつけるし、ありゃ良い女になるぞアズリー?」

「兄貴、言い方が下衆いわよ」

「はははは、こりゃ失敬っ」


 ブルーツとベティーのいつものやり取りに皆が笑う。


「しかしマスター、本当にバラード対策はどうするんです? 親善試合のルールでは中級魔法までしか使えないですし、その魔法の中からバラードを制するって難しいんじゃ?」

「作戦名『ポチの犠牲の果て』でいけばなんとかなるんじゃないか?」

「それなら作戦名『アズリー、墓までの最短ルート』を使いましょう」

「勝手に殺すなやっ!」

「はははは、こりゃ失敬っ」


 おでこにポンと前足を置くポチに、また皆の笑いが誘われる。

 このメンバーの中では、ポチ(こいつ)はしっかりと溶け込んでいる。ダンカンも使い魔に対して偏見しないから、最初は嫌がってたポチも大分慣れた感じだ。


「なんにせよ、この冒険者ギルドの二人が出るんだ。当日は応援に行かせてもらうよ」

「はい、ありがとうございます」

「え、応援してくれるんですかっ?」


 ブレイザーの言葉にポチが嬉しそうに尻尾を振る。

 確かにこれは嬉しいよな。俺にも尻尾があればきっと振っているだろう。


「あ、何言ってんだよ?」

「へ?」

「そうよ、応援するのはリナちゃんに決まってるでしょ?」

「えー、ベティーさんまでっ!?」

「師匠が強いのは当たり前、ならば弟子の方を応援するのは必然だぞ、アズリー」

「リナちゃんはここのアイドルだしね~。アタシも行けたら行こうかしら?」


 ……どうやら、これはいよいよ孤立無援のようだ。

 その後、話は弾み、時間は過ぎていった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「で……なんですかブルーツさん? 二人で外に出ようだなんて?」

「実は……だな……その……」


 ここまで歯切れの悪いブルーツも珍しい。

 一体どうしたと言うのだろう?


「……い、いいからちょっと付き合えよ」

「え、ちょっとちょっとっ、一体どこに行くんですかっ」

「イイ所だよ!」

「だからそれがどこか聞いてるんですよ」

「ゆ……」

「ゆ?」

「ゆ、遊郭だ……」


 Oh。

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