385 忘却の彼方にあった成長
2019/2/3 本日七話目の投稿です。ご注意ください。
「仲直りはしないのか?」
「さぁ? そういうのって時間とか時間とか時間とかが解決するもんなんじゃないの?」
「まだ時間はかかりそうだな、ははは……」
「そうよ~? アンタはもっと時間を大切にしなさい。お姉さんからの忠告よっ♪」
といって、ウィンクして去ったベティー。
おかしい。俺の方がざっと見積もって四千九百七十才くらいは年上なんだが?
そんな事を考えていたら、我が使い魔、脅威の胃袋を持ったポチから念話連絡が入った。
『マスター! そろそろ順番ですよ! さっさと戻って来てください!』
『おぉ、ようやくか。今行く』
早々に念話連絡を終え、俺は魔法教室に向かい走り出した。
すると、途中で魔法の鍛錬をしていたリナが俺を呼び止めた。
「あの、アズリーさん!」
「ふぇ?」
「そんなに急いでどうしたんですか? よ、呼び止めちゃってなんですけど……」
「あぁ、一旦解放軍のアジトに戻るんだよ」
その会話を拾ったのか、ウォレンが近付いてきた。
「おや、あちらに戻って一体何を?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれたウォレンさん!」
「おやおや、これは……」
「あ、あはははは……」
おかしい。
ウォレンとリナの反応がどうにも薄い……ぞ?
「そういう時のアナタは、どうせしょうもない事をしようとしてる時なのよ」
ウォレンとリナの間を割って入るように言ったのは……アイリーン。
どうやらリーリアやナツ、そしてマナをうまく誤魔化してここまでやってきたようだ。
というか、その三人もここに付いて来ている。
「で、何するつもり? あそこにはもう重要なものはないでしょう? 人員だって大方トウエッドに来てるんだし?」
「……いえ」
アイリーンの言葉を咀嚼しながら、答えに行き着いたであろうリーリアが口を開く。
そしてそれに続きウォレンが気付く。
「一つだけありますね。重要なものが」
「っ! そうか、限界突破の魔術陣っ!」
当然、アイリーンも気付く。
そして、困ったような顔を浮かべたリナが、言いにくそうに聞く。
「あの……そういえばアズリーさんって……」
直後、リーリアが紡ぎ、
「もしかしてこの時代に戻って来てから……」
呆れた顔のアイリーンが、
「い、一度も……」
額を押さえたマナが、
「……使ってないのね?」
そしてナツが締めくくる。
「わあわあ! どれだけ上がるんだろうね!? だってアズリー君、魔王ルシファーを倒してからずっと限界突破してないんでしょう!?」
好奇の目をくれるのはナツだけ。
それ以外の連中は、皆、呆れ眼で俺を見ている。
おかしい。リナあたりなら何かフォローしてくれると思ったのだが……?
いや、待て。まだウォレンがニコニコと俺を見ている。
やはり友人は持つものだ。これは俺に対する助け船があるはずだ。
「アイリーン様」
おかしい。俺じゃなくアイリーンに話しかけたぞ、ウォレンのヤツ。
「しょうもない……ではありませんでしたね」
「えぇ、まったくよっ!」
「これは――――」
皆が示し合わせたかのように呆れた目を向ける。
当然、ナツ以外ではあるが、この視線はとてつもなく痛いぞ?
「「――――どうしようもない……」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くそっ! 皆して愚者愚者言いやがって! 俺だって忙しかったんだ! 少しくらい優しくしてくれたっていいじゃないか!」
と言いながら、俺は解放軍の食堂に繋がる空間転移魔法陣まで飛んできた。
すると、目の前でポチがお座りしながら待っていたのだ。
「おぉポチ! 聞いてくれ!」
「いえ、聞かなくてもわかります。どうせ皆さんに馬鹿にされたのでしょう?」
「おぉ! わかってくれるか!」
「当然ですとも! 今回は私の盾になってくれたのでしょう!? ありがとうございます!」
おや? どうもポチの言ってる事が理解出来ない。犬語か何かだろうか?
「マスターの管理は使い魔である私の仕事! しかし、私だって忙しいんです! 少しくらい優しくしてくれるのがマスターですよね! ありがとうございます!」
「…………つまり、自分も忘れてたけど、俺が避雷針になってくれて助かったと?」
「流石マスターです! もう以心伝心ですね!」
「てめぇ! 少しは俺の苦労を思い知れ!」
「嫌です! マスターの苦労を思い知ったら私ストレスで死んじゃいます!」
「どういう事だよ!?」
「それだけマスターの苦労を知ってるって事ですよ!」
「お前……! 最高の相棒かよ!」
「マスターのそういうところ、私大好きですー!」
「よし! 俺に付いて来い!」
「マスターのためならたとえ水の中……は嫌です! 火も嫌ですー! ご飯の中には飛び込みたいですー!」
と、ポチが俺の事を考えてくれるとわかったところで、俺たち二人は限界突破の魔術陣の前に立った。
「まさかこんなに長い順番待ちがあったとはな」
「私が朝から並んでやっとですからね」
「アイリーンさんが、『言えば割り込ませたのに』だってさ」
「覚醒石と限界突破の魔術を持ち帰った張本人ですからね。少しは優遇されてもいいとは思いますが、マスターはそれを望まないでしょう?」
こういうところは本当によく俺の事理解してるよな、ポチって。
「皆の戦力アップも大事さ。さぁ、ポチから先にやっちゃってくれ」
「はい!」
ポチは立ち上がり、限界突破の魔術陣に前脚を置いた。
そして魔術陣が起動すると同時に、ポチの顔が驚きに染まった。
「わ、わ、わ!? す、凄いです!? あの時以上ですー!」
ポチの言う「あの時」とは、どの事だ? いや、あれは限界突破の魔術陣を知ってすぐの事だ。初めてソドムの街の冒険者ギルドでレベルを上げた時。その時が一番ポチのレベルが上がった時。
その時以上――ともなると、一体どれだけのレベルが?
頭を抱えて連続で鳴るファンファーレに耐えているであろうポチを横目に、俺は限界突破の魔術陣に手を伸ばす。
「っ!? つぉ!?」
連続で響くレベルアップのファンファーレ。
止まらぬ音に、俺とポチはずっと見合う程だ。
「…………お、収まりました」
「……俺もだ」
「何回鳴りました?」
「数え間違いじゃなければ…………おそらく五十回」
「ご、ごじゅっ!?」
もの凄い形相をするポチ。
…………おそらく、これが魔王を倒した付加価値。
しかし、リーリアにその変化は見られなかった。
つまり、ポチのあの一撃が、魔王ルシファーを死に至らしめたという事だ。
細切れ状態だったのに、絶命していなかったと思うと、悪魔――魔王の生命力がどれ程恐ろしいかわかるな。
俺は、ポチが描いたマジックシフトを使い、ポチに対して鑑定眼鏡を発動する。
――――――――――――――――――――
ポチ
LV:302
HP:118201
MP:56088
EXP:1277152866
特殊:ブレス《極》・エアクロウ・巨大化・神速・金剛力・浮身・金剛体・攻撃魔法《上》・補助魔法《上》・回復魔法《上》・吸魔・金剛心
称号:最上級使い魔・極めし者・大番鳥・上級魔法士・要耳栓・名付け親・菓子好き・愚者を育てし者・風神・金剛の身体・古代種殺し・お菓子(仮)・紫死鳥・SS殺し・天獣の母・種族エラー・鉄芯・使い魔杯覇者・世界の英雄(雌)・竜殺し・牛(仮)・二天に見初められし者・ポッチー仮面・魔王殺し・算数検定9級・大天獣(仮)・青天井の胃袋・チキン好きのチキン・物語の語り手・極東の荒野・生還者・赤っ恥・求道者
――――――――――――――――――――
……やはり、最後に限界突破をしてから五十もレベルが上がっている。
飛躍的に伸びたのはHP。天獣という特性も勿論あるんだろうが、七万程だったポチのHPが十万を超えるともなると、バケモノ染みてくるな。
そしてMPも高い。もしかしたらポチも究極限界が使えるかもしれない。
だけどポチは簡単な魔法や魔術しか使えないから、ブレス等の魔力を込めた攻撃に幅が広がったと考えた方がいいかもしれないな。
……そしてこの称号の増え方。
【魔王殺し】。ポチにとって能力向上が一番なのはやはりこれだろう。
というか【算数検定9級】ってのは一体何だ? もしかして戦魔帝サガンの時代に飛んだ時に、冒険者ギルドでやったあの暗算が原因か?
アイリーンを叩く時に俺がポチに「大天獣」って言ったのも響いてるのか。まぁこれは良称号だろうから気にする事ではないだろう。
や、やはり付いたか、【青天井の胃袋】。これのせいでポチの食欲も更に旺盛になったんだろう。
サガンの前で演じたポッチー仮面か。実は最近お気に入りだったりする。
なるほど、チキン好きのチキンとは言い得て妙だ。
理解出来ないのは【物語の語り手】だ。一体どこで付いた事やら? 時期的にアジトに戻った直後かもしれない。
【極東の荒野】は置いておこう。食べたら消えるかもしれないしな。
【生還者】……? あぁ、もしかして空中浮遊魔法を使った自殺の名所の崖から飛び降りて生還したからだろうか? 確かに飛び降りたしな。いや、あれは俺が落としたんだっけか? ふむ、記憶が曖昧だ。
【赤っ恥】。これは魔法教室の開室の時だろう。ウォレンに唆されて登場したポッチー仮面とレオール仮面が影響だ。もしかしたらこれは悪い称号かもしれない。後で薫に見てもらう必要があるかもしれないな。
そしてこの【求道者】……これは一体何だ?
こればかりは答えが出ない。
他にも成長してる称号もあるようだが、俺のと見比べてみればわかるかもしれない。
そう思い、俺は鑑定眼鏡に反射魔法を使い、自分のステータスを見た。
…………何だこりゃ?




