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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十一章 ~新生・魔法教室編~

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349 アズリーの思惑

 モンスターの身体を覆う黒いオーラ。あれは間違いなく《闇憑き》。様々なモンスターを生贄にし、特定のモンスターの力を底上げする外法。


「ランクB……いや、ランクAにまで利用出来るようになっていたのか」

「ブルーツさんやベティーさんの話だと、ランクSのオーガクイーンの闇憑きを見たと言っていんした」


 春華の言葉にポチがあんぐりと口を開ける。


「アルファだけじゃなくこちらの技術も深めたんですか!? ママママ、マスター! ど、どうしましょう!?」

「落ち着けよ。あの程度ならまだ許容範囲だ。けど、なんだってトウエッドにまで? もしかして、戦魔国から流れてきたのか?」

「最近は見なくなったって聞いたから、おそらくそうだと思います」


 常にベイラネーアにいるティファがそう言うなら、情報は信用出来る。おそらく、ビリーかクリートが、アルファを完成させる前に作ったモンスターが流れてきたと見るべきだろう。

 ポチはあれだけの強さがあって何故慌てるのかわからないが、やはり初めて出会う敵は不気味さがあるのも頷ける。

 この三匹の王を前にして強い警戒心を露わにしているのは、やはりティファと春華。


「ふははははは! この狼王を前に凡愚の王が何の用だ!? 我の爪の(さび)にしてくれようっ!」


 爪に錆が発生したら大変だと思うが、タラヲの豪気は相変わらずだなぁ。


「どうするんですか、マスター?」


 王たちが近付くにつれて、ポチも落ち着きを取り戻したようで、俺の前でカタリと首を傾げた。

 ここは俺が倒してもいいが、それだとティファと春華のためにならない。


「ポチ、退路を塞いでおいてくれ」

「っ! はい、かしこまりました!」


 ポチは俺の意図に気付いたのか、少し笑みを零して大きな弧を描くように跳び上がった。着地したのは王たちの背後。


「アズリー……」

「さん?」


 ティファと春華が疑問を顔に出し、俺を見る。

 巨大な体躯のゾンビの王、ゾンビキング。ゾンビたちの集団の中で胡坐をかくような存在だが、稀に群から外れて行動するという。ランクはB。フレッシュゾンビと同等のランクだ。このサイズでフレッシュゾンビであれば、フレッシュゾンビキングなんていう亜種のランクAモンスターになるのだが、このゾンビキングは損傷が激しいしな。

 大きさこそゾンビキングに一歩劣るが、引き締まった身体と、長い手足。そして身体の外まで飛び出たような骨格。ランクAモンスターのグールキング。リーチが長く素早いから、この中で一番厄介だろう。

 そして黄金の体毛を逆立たせた豚の王、オークキング。槍を扱うが、動きが直線的なので、対処自体は難しいものではない。しかし、この中にいるとなると、ちょっと厄介かもしれないランクAモンスター。


「うーん、そうだな。それじゃあ、まずは春華。あの三匹相手に立ち回っておいで」

「ひぇ!?」


 抜けるような声と共に、目を丸くした春華。ティファも似たような表情をしている。


「あ、あちき一人で、ありんすか……?」

「うん」


 俺は満面の笑みでそう答えると、三匹を見据えたまま沈黙した。

 鑑定眼鏡で見たところ、春華のレベルはまだ百を迎えたばかり。ティファは百二だな。闇憑きのあの三匹と対等に渡り合えれば、それなりの自信になるだろう。

 これは俺が過去で体験した事に似ている。リーリアとジョルノとの間に信頼関係がなかった時、ほぼ放置だったしな。今回は俺とポチの監督があるだけ非常に易しい難度だろう。

 しかし、春華とティファの中では未知の境地。ただ一言、「やれ」と言われて出来る冒険者は中々いないだろう。だからこそ、二人にとって必要な事だと思っている。

 さて、春華はどう感じている事やら。

 俺が横目で春華の動向を見守っていたら、春華は、俺にも聞こえるような音で唾を呑み込み、強い眼差しで一歩前に出たのだ。

 眼差しこそ強いが、その一歩はぎこちなく、肩や唇は震えているのが見てとれた。

 次の瞬間、


「ふっ!」


 剛力、剛体、疾風の発動。まぁ、それしかないよなぁ。

 ランクBのゾンビキングは見たところランクA程、ランクAグールキングとオークキングはランクSに近い実力を保有しているだろう。

 ふむ、一段階ランクを完全に上げる事は出来なかったみたいだな。ならば、初めからランクS以上のポテンシャルを持っているアルファを作った方が効率的……か。敵さんも本当によく考える。


「ア、アズリー。春華にはちと荷が重いのではないかっ? ティファと我と一緒ならば或いは……」

「次、楽しみにしてるぞ、タラヲ」

「はひ!?」


 少し厳しい言葉をタラヲに投げると、タラヲは歯をガチガチさせながら、周囲をキョロキョロと見始めた。


「ティファ! お腹が――」

「ちょっと黙ってて」

「はひ!」


 春華に危険が迫った場合を考え、ポチにアイコンタクトを送ると、ポチはウィンクして応えた。

 さて、今の内に俺は……っと。俺がストアルームの宙図(ちゅうず)をしている中、春華が駆け始めた。

 おっと、三匹の出方を待つと思ったが、意外や意外。やっぱりここぞって時は、肝が据わってらっしゃる。それに速い。一瞬で距離を詰め、ゾンビキングの懐に入った。

 だけど――――、


「っ! くっ!」


 オークキングの槍に阻まれるか。しかし春華も攻め切るつもりじゃなかったみたいだな。ちゃんと後方に余裕を残している。グールキングの追撃も刀で上手くいなしているし、考えて動けているようだ。

 この圧迫感は、一人でランクSと対峙するより重いだろう。そして、これを全て対処出来れば、それはランクSSのモンスターと戦えるという証明にもなる。勿論、完全にではないけどな。


「はっ! やぁ!」


 ……流石銀の皆に鍛えこまれただけはある。掠り傷こそ負っているが、俺やポチが助ける必要はなさそうだ。

 ――お、あれが決まりそうだな。


「そこっ!」


 春華が鋭い突きを繰り出した瞬間、俺はゾンビキングと春華の間に移動し、春華の刀を掴んで止めた。


「なっ!? アズリーさん!?」

「オーケー春華。ティファに交代だ」

「あの、後ろっ!」

「大丈夫大丈夫。こいつらの攻撃力じゃ俺の背筋は抜けないから」

「じょ、冗談でありんす……ね?」

「まぁちょっと痛いけどね」


 後ろで頑張っている三匹の王の顔は面白かったが、ひとしきり攻撃が続くも、やがて攻撃の嵐はなりを潜める。

 王たちは互いに見合いながら不可解そうな顔をしているが、そういった顔よりも、是非俺の背筋に見惚れるような顔をして頂きたいものだ。


「次はティファたちの番だな」

「は、はい!」


 明らかに緊張が見て取れる。まぁ、これも経験になるだろうし、心を鬼にしなくては。


「奴らの正面にいくまで宙図(ちゅうず)は禁止だ。頑張れよ、ティファ、タラヲ!」

「こ、こいつもですかっ?」


 俺の言葉で、一瞬にして表情が変わるティファ。「こいつ」と言いつつも、しっかりと心配そうな表情しているじゃないか。やっぱり濃密な時間というのは信頼関係を築くものだな。


「勿論さ。ほれ、タラヲ。これをぐびっといっときな」

「ぬっ!? これは、いつぞやの秘薬!」

「それは、さっき作ってた……」


 へぇ、ティファは俺がストアルームから色々出して、この薬を作ってたのを見ていたか。


「突貫で作ったけど、上手くいってるはずだ」

「ふはははは! これさえあれば千狼力(せんろうりき)よ! んっ、んっ、んぅ! 美味い! アズリー! 今度お前を我輩の家来にしてくれよう!」

「それはどうも。ほい、オールアップ&リモートコントロール!」

「「なっ!?」」


 俺はゾンビキングに対して身体強化魔法を掛けた。そうか、やっぱり驚くよな。

 確かに使い魔でないモンスターへの補助魔法なんて、もしかして世界初かもしれないな。


「使い魔といえど、二人もいれば春華とは難度が変わっちゃうだろう? 動き見て調整するから頑張ってきな」

「げ、解せぬ……!」


 タラヲは渋面をこちらに向けるも、やはり二人というアドバンテージに納得せざるを得ないだろう。


「――っ! ガァアアアアアアアアアアアアアッ!」


 タラヲの覚醒。小さなチワワーヌがガルムへと変わる。


「……ふん、やはりこちらの方が身体が軽いではないか」

「タ、タラヲさん……凄いですっ!」


 春華は驚いているが、ティファはそれ程驚いていない。まぁ、使い魔契約する時にガルムの時のタラヲは見ているからこんなものか。


「ふはははは! 春華よ! 今宵は存分に我輩を撫でるがよい!」


 中々の魔力量だな。やはりランクSに近いと称されるだけあって、狼王ガルムは別格か。

 ならば……っと。


「ほい、テンションアップ・カウント2&リモートコントロール!」


 グールキングとオークキングにも能力強化魔法を掛ける。


「解せぬぞぉ……!」

「五月蠅い、やるわよ!」


 さて、ティファの成長はいかに?

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