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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十一章 ~新生・魔法教室編~

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347 忘れられていた英雄

「春華、何で残ってるんだ? 皆と一緒にヒターチに行ったんじゃ?」


 俺の困惑する声に、春華はただ笑みを浮かべて応える。しかし答えてはくれない。

 手を宙に少し置いて「待っていてくんなまし」と言いたげだ。料理の進行があるからだろう。すぐに厨房へ戻って行った春華に俺は首を傾げ、疑問を残したままポチの後ろ脚を持って引きずり洗面所に向かった。


「「ぷわっ!」」


 顔を洗った俺とポチは、同時に手拭いを顔に付け、同時に拭って放した。悠久の時、繰り返されたバリエーションの中の一つだ。こういう時は何故か波長が合う。


「春華さんが?」

「そうなんだよ。朝食を作ってたな」

「おかしいですね。てっきりマナさんが残ると思ってたんですが……」

「んあっ? お前知ってたのかよ!?」

「当然でしょう。マスターを騙すのは昔から私の役目なんですから!」


 まるで俺が悪いかのように強めに言われてしまった。


「いいですか? 昨日ブルーツさんが言ってたでしょう。『これからは向こう(、、、)のイツキと連絡を取り合って、引き取った子供をここに送ってもらう予定だ』って。その面倒、マスターと私だけじゃ無理に決まってるでしょう?」

「つまり、ここには最低一人残る必要があったのか……」

「そういう事です。昨日マナさんと春華さんが『練習』と称して何度かジャンケンをしていたんですが、十中八九マナさんが勝っていたんです。けど、本番では春華さんが勝ったって事でしょうね」


 何故、大の大人がジャンケンに練習を必要とするのかはまったくもって理解に苦しむが、二人には勝って残る利点などあったのだろうか。

 どう考えても高難度のモンスター討伐に参加した方が得られるモノが多いだろうに。

 居間に向かって歩く俺が、顎先に手を添えながらそう考えていると、ポチはじとっとした目をこちらに向けて大きな溜め息を吐いた。


「はぁ~……」


 何とも耳当たりのよろしくない溜め息である。

 居間に戻ると、春華は座布団の脇で正座しながら待っていた。

 俺とポチがテーブルに載せられた焼き魚や茶色いスープに目を奪われていると、


「改めて、おはようございんす」


 春華は指を付いて頭を下げた。


「あ、あぁ。お、おはようございます」


 俺は慌てて春華と同じポーズを取り頭を下げた。

 慣れない風習のせいか、非常にぎこちなかったように思えるが、ポチは見事にそれを成し得ていた。というか、完全に「伏せ」のポーズだった。なるほど、上手い訳だ。


「どうぞ、お掛けくんなまし」


 春華の言葉に勧められるがまま、俺とポチはテーブルの前にある朱色が褪せたような座布団に腰を下ろした。それを見届けた後、春華も座布団に座る。

 見た事もない食事が並び、再び料理に目を奪われる。


「マスター、マスター! 早く早く!」

「ん? あぁ、じゃあポチ、今日はお前やれよ」

「はい!」


 ポチは待っていましたと言わんばかりの笑顔でそう叫び、前脚を合わせた。俺と春華もそれに続き、ポチの言葉を待った。そう、これは神への祈――――


「――――神様ありがとうございます! おかわりですー!」

「おいはえーよ! 目の前にあったご飯どこ消えた!?」

「私の血となり肉となっています!」

「既に消化してんのかよ! おかしいだろお前の胃酸!」

「今なら私の胃酸だけでオーガキングを葬れますね!」


 ち。駄目だ。既にポチの目はご飯しか見えていない。俺の皮肉も全然通じない領域に達している。

 確かに天獣の胃酸だ。消化も早く、強力なのかもしれない。今度ポチが吐いたら調べてみよう。


「はい、ポチさん」

「ありがとぉかわりですー!」


 そういえば、トウエッドのどこかに「そば」なるものを延々と椀に入れ続ける、わんこそばという食べ物があるそうだが、今、俺はポチを前にそれと酷似するような食事現場を目撃しているのかもしれない。

 白米が次々とポチの口に運ばれ、春華が黙々とそれをこなす。春華の背後にある、バカでかいお(ひつ)の中身がとてつもない勢いでなくなっていく。というかこんなお櫃あったのか。よく見ればお櫃に「ポチさん専用」と毛筆で書かれている。この字は春華のものか。非常に達筆で、上から何かしらのコーティングが成されている。もしかして春華の手作りなのかもしれない。

 ポチの速度が緩んできたところで、ようやく俺たちの食事が始まった。


「この白いプリンみたいなのって何?」

「豆腐です。大豆から作りんす」

「この茶色いスープは?」

「味噌汁です」

「その味噌ってのは?」

「茶色いペースト状の調味料です。大豆から作りんす」

「この緑色の凸凹(でこぼこ)した植物は?」

「枝豆です。大豆から作りんす」

「と、豆腐にかかってるこのソースは?」

「醤油です。大豆から作りんす」

「っ!? こ、この味噌汁に入ってる髭が生えているようなシャキシャキしたのはっ?」

「もやしです。大豆から作りんす」

「っっ!?!? そ、それじゃあポチがデザートに食べているあのびよーんて伸びる白いのは!?」

「お餅です。お米から作りんす」

「あ、そ、そうなんだ」

「でも、それに付けたきな粉は大豆から作りんす」

「………………次の研究は大豆で決まりだな」


 春華曰く、トウエッドに住むのであればトウエッドに合わせた食材を使いたいとの事で、頑張って勉強したのだそうだ。

 トウエッドの未知なる食事に驚きつつも、その美味しさに舌鼓を打った。

 ポチはお餅が気に入ったようで、きな粉、醤油、甘醤油、大根おろしと、色々付けて楽しんでいた。

 朝食が終わると、春華は食器を片し始めた。俺が手伝おうとするも、春華は手伝わせてくれなかった。


「アズリーさんはアズリーさんにしか出来ない事を」


 そう言った春華の目は、普段より強く、俺はそれに従わざるを得なかったのだ。

 俺はポチをおいて居間から去り、自室へと戻った。


「さて、ブレイザーたちには悪いけど、この部屋を改造しちまうかっ」


 テーマは理想の研究室。そう意気込み、俺は部屋の調度品などを一度まとめるために、ストアルームを開いた。

 すると、ストアルームの入口から奇声が零れてきたのだ。


「な、何だ何だ!?」

「ひかりぃ……ひかりぃ~……!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」


 嫌な予感はあった。だから俺は、恐る恐るストアルームの中を覗いてみたのだ。

 そしてすぐにまた顔を出す。(かぶり)を振ってもう一度。しかしまた顔を出した。

 正面に見えていたのは、暗闇で(うごめ)く異様なシルエット。


「水ぅ……水ぅ……!」


 掠れたモンスターのような声と、


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 掠れたモンスターのような声。

 おかしい。この前ストアルームを開いた時、モンスターが紛れ込んだのだろうか?

 いや、でも、しかし、待て。おかしい。人語を解するモンスターなのだろうか? 魔力は弱り切っているため襲われる心配はなさそうだが、はて?


「ふんふふーんふふーん♪ ふふふーん♪ マスターのぉ~……ふふ~ん♪」


 鼻歌交じりの歌なのか、歌交じりの鼻歌なのかはわからないが、ポチも居間から自室に戻ってきたようだ。

 是非、その「ふふ~ん♪」の部分の歌詞を聞いてみたいが、今、俺はそんな場合ではなかったのだ。


「ほい、トーチ!」


 光源魔法を使い、ストアルーム内を照らす。

 血走った目が俺を突き刺すように睨む。俺の目はその姿を捉えるも、俺の脳は……やはり(かぶり)を振ってしまうのだ。


「あれ? マスターどうしたんです? そんなに青ざめた顔しちゃって?」


 ポチの言葉を受け、俺の顔には、背中には、冷たい汗が流れまくっている。

 そうだったそうだった。そういえばそうだった。このゴタゴタで俺もポチもブレイザーたちも、勿論リーリアも、完全に忘れていたのだ。

 大きな称号を持った面倒な存在たちを。


「やばいポチ。六勇士が二人、ストアルームの中にいる」

さ、作者も覚えてましたよ?(すっとぼけ)



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原作『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』の第九巻が、2018年6月15日金曜日に発売致します。

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前回のように同日発売ではないので注意してください。


漫画が、2018年6月12日火曜日に発売


原作が、2018年6月15日金曜日に発売です。


皆様、お間違えのないように、宜しくお願い致します。


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店舗特典につきましても、情報がおりてきましたらご連絡致します。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] どっかの話で、ツァルとララからキャベツ貰った時に味噌付けて食べてなかったっけ?
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