346 銀のミーティング
「あ、新しい……家?」
頭の整理が追いつかず、俺は言われた事をそのままブレイザーに聞き返してしまった。するとブレイザーではなくブルーツが答えた。
「ティファが用意した金と俺たちの貯金で、新たな拠点を買った。そういう事だな。これからは向こうのイツキと連絡を取り合って、引き取った子供をここに送ってもらう予定だ」
なるほど。
管理が厳しくなった戦魔国から逃れ、トウエッドの首都エッドに来たのには、こういった理由もあったのか。色食街で困っている子供たちは、戦魔国のポチズリー商店で買い取り、空間転移魔法陣を通ってトウエッドに入る。それに、幼い内から異国の文化に触れられるのは長期的に見て悪い事ではない。
「でも大丈夫なのか? 入国審査とか……って、あ」
そうだった。実際俺も不法入国をしているのではないか? 関所を通っていない以上、これはまずいのではないか? その考えがまるでわかっているかのように、ライアンがこちらを見た。
「問題ありません。既に解放軍の根回しは完了しております。勿論、対価は必要ですが」
「対価っていうのは?」
「有事の際、トウエッドに対しての武力提供。平たく言えば今後、銀はトウエッドお抱えのチームとなるという事です」
「そういう事ですか」
確かに平均ランクSのチームは国としても重宝するだろう。しかし、本来であれば取り次ぐだけでも相当な時間を必要とするだろうに、こんなあっさりと通るなんて、解放軍……いや、アイリーンとウォレンの手腕が見て取れるな。
おそらく俺がエッドに転移して来た時、ライアンがブレイザーに渡した書状が、今回の件のものだったのだろう。
「そんなところで立っているのもなんだ。まぁ座れよ」
リードの指摘に頷き、俺は目の前にあった座布団に腰を下ろし、その両側に春華とマナが腰を下ろした。
そして何故かポチが俺の膝の前に座り、リーリアは後ろで立ったままだった。何だこの圧力のある十字は。
「ふふふ、それじゃあブレイザー。始めましょうか」
「始めるって何を?」
俺はベティーに聞き、ベティーは俺を見てくすりと笑った後、再びブレイザーを見た。
「これより、銀の全体ミーティングを始める」
あぁ、そういう事か。
「ライアン、早速依頼が来たそうだな」
「はい、ヒターチという街で多くのモンスター発見情報があり、これを銀に討伐して欲しいというトウエッドからの依頼です。ヒターチはここから北西に行ったところにあるそうです。討伐完遂報酬は六万ゴルド。不特定多数のモンスター討伐ですが、国からの依頼と考えれば悪くない報酬だと思います」
「へぇ、戦魔国よりかは羽振りがいいな」
ブルーツが言うと、ブレイザーは首を小さく横に振って答える。
「その中にSSランクのモンスターがいれば割に合わないと思うが?」
「あめーよブレイザー。今はSSランクのモンスターと戦える方がありがてぇってもんだ」
「ここは兄貴の言う通りよ。ブレイザーが安全を考慮してるのは皆わかってるけど、魔王復活前に出来るだけ実戦経験を積みたいのは皆一緒だと思うわ」
「ふむ……」
ブレイザーは顎先に手を当て、考え込む。
どちらの意見も尤もだ。チーム全体の生存確率を上げたいブレイザーの意見。SSランクのモンスターと戦い、今後の糧としたいブルーツとベティー。
今はリーリアの当てもまだわかっていない状況。神山に入るため根回しをする必要があるが、それ以外にもやらなくちゃいけない事は山積みだ。
「アズリー、お前から何かあるか?」
「うぇ? お、俺?」
ブレイザーの一言で、周囲の視線が俺に集まる。銀のメンバーではない俺だが、ブレイザーが意見を求めたのには、そこに理由があるのかもしれない。
これはしっかり答えないといけないだろうな。
「うーん、そもそも安全に強くなるという事が出来なくなってきているって状況だよな、今って。勿論それが出来れば苦労はしないけど、いざ死を前にした時、初めて自分の真価が出ると思う……かな? ははは」
俺の真面目な答えに、こちらを見て来たポチの表情が和らぐ。はて、何か不味い事でも言っただろうか?
「……やはり、重みが違うか」
ブレイザーはそう零し、ブルーツとリードはそれに続くように「ししし」と笑った。
「な、何だったら俺も付き合おうか?」
「そりゃ駄目よ。アンタはアンタでやる事が多いでしょうに」
「そうそう。神山の入山許可と魔法教室の先生もやるんだから」
ベティーとマナのご指摘。正にその通りだ。
すると、背後で空気が揺れた。それは俺の右脇を通り過ぎ、正面の畳の上で止まった。
「私が付いて行こう」
「リーリア?」
「なに、この銀というチームに興味があるだけよ。それなら比較的安全にモンスターを討伐出来るでしょう?」
リーリアは肘を抱えながらブレイザーに言った。
確かにリーリアの監督下にあれば、SSランクのモンスターが出現したとしても怖くない。今のリーリアならちゃんと戦闘のアドバイスが出来るだろうしな。
「いかがでしょうリーダー。リーリア様の提案、私としても悪くないと思いますが?」
ライアンも乗り気だ。しかし流石だなライアンも。こういった場合、ただ答えを促すだけの方がいいだろうけど、あえて副リーダーの立ち位置から「私は賛成」という言葉を発している。
なるほど、こうなってしまえば、
「リーダー、私も賛成です」
「僕も頑張りますから!」
フォールタウン出身のレイナとアドルフが乗って来る。
「俺も行きたいな」
「私も」
やはりリードとマナも乗るか。
春華は何も言わないが、ナツは座布団を掴みながらユサユサと揺れている。あの子も行きたいのだろう。
「……そうだな。最初から国の依頼を断るのも問題だ。ここはリーリア殿に甘えるとしよう」
銀というチームが大きくなった証拠だ。対立しないでやれているのは、それでもブレイザーがライアンを信頼している事と、それ以上にライアンがブレイザーを信頼しているからだろうな。
……ん? はて、銀?
「あれ? そういえばイデアとミドルスはどうしたんだ?」
パーティクエストの時もいなかったし、ここにもいない。魔法士がナツ以外いないのは銀としても厳しいのではないだろうか。
「バルン殿の紹介でな、現在北の方に行っている」
「バルンさんの?」
「何でも、腕のいい魔法士がいるとの事で、師事を受けるという話だ。私もそれを許可した」
そういえばバルンも会った時かなりの魔力を保有していた。しかし、バルン程の人間が師事を受けるなんて相当の使い手じゃないのか?
「それならマスターの授業を受ければいいのに、イデアさんもミドルスさんも。ねぇ、マスター?」
そんなポチの言葉にベティーが苦笑する。
当然、それには俺も同感だった。
「あのな、ポチ。どう考えてもあの二人が俺の授業を受けるとは思えないだろう」
「あー! そういえばマスター、ミドルスさんたちにいじめられてましたもんね!」
「わー! おい、やめろっ」
俺はポチの口を塞ぐも、間に合わなかった。皆に聞かれているのだ。なんとも恥ずかしい黒歴史だ。
「んま、そりゃアズリー自身が選んだ茨の道だからな。あいつらも反省しているからこそ、受けられないんだろう」
ブルーツの助け舟が……泥船のように聞こえるのは気のせいだろうか。
確かに俺も魔法大学入学時にリナを助けていなければ、オルネルやミドルス、イデアとも上手くやっていけたかもしれない。もっと上手いやり方があったかもしれないけど、やっぱり人付き合いというのは難しいものだ。
「ナツはアズリー君の授業受けるのー!」
元気よく言ったナツに、心無しか助けられた気がする。
「おう、任せてくれ。とっておきの水魔法を教えてやるぞ、ナツ!」
「はーい! アハハハハハ!」
その後、今回のモンスター討伐で得た、主観や考察、そしてアドバイスの交換が行われた。勿論俺やポチ、リーリアも参加し、非常に有意義なミーティングとなった。
ミーティング後の話だが、リーリアも驚いていた。「モンスター相手にここまで詳しく、周到なチームを、私は知らない」と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、銀とリーリアは朝早くにヒターチに向かい、俺は新居の自分の部屋で目を覚ました。ポチの枕は相変わらず気持ちいいが、誰もいない広い家で起きるというのも何だか変なものだ。
「えーっと、洗面所はこっちだったか」
「マスター……眠いですぅ」
ポチを引きずりながら洗面所に向かう俺。しかし、おかしい。何故か居間の方から物音がする。
誰か忘れ物でも取りに来たのだろうか?
俺は洗面所よりも先に居間に向かった。すると、いるはずのない人間が、朝食の準備をしていたのだ。
「あらアズリーさん、おはようございんすっ」
そこには、嬉しそうに三人分の食事を用意する、春華の姿があったのだ。
「……あれ?」
おや? こいつぁ一体?
8日あたりから宣伝がやたらうるさくなるかもしれません。
予めご了承くださいませ。




