【10巻発売WEB特典「◆仮契約」】
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第十巻発売記念の、WEB特典【その1】です。
読まなくても本編に支障はありません。
吹き荒れる砂嵐の舞う荒野。一人悠然と歩く男がいた。
男の名はウォレン。
解放軍の幹部でもあるウォレンが、何故こんな荒野を一人歩いているのか。やはりそれには理由がある。
ウォレンは現在、戦魔国を巡り、はぐれの魔法士を勧誘して回っているのだ。王都レガリアから始まり、レジアータ、ベイラネーア、ロマーヌタウン、イベリアルタウンと徐々に南下し、そしてその足はこの南の地にまで向けられた。
「ここが噂に聞く滅びた町ですか」
くすりと笑みを浮かべ、一度眼鏡をすいと上げた後、ウォレンは門を潜った。
そして驚かされたのだ。滅びの町の異様さに。
綺麗に整地された土地、均等に分かれている農地、どこからか運ばれてくる水源、そして極め付けがアレだった。
「双頭の蛇――カガチですか。そしてあれは一体?」
「じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪ じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪」
「ダンシングジョウロガールといったところでしょうか。こんな危険な地に二人? いえ、この魔力反応はもしや――」
「「――ほぉ、こんな辺鄙な地に客人とは、何とも珍しいものだな」」
ウォレンの思考を遮ったのは、双頭の蛇カガチだった。
「使い魔でしたか。私は旅の者です。ここは町だったと記憶していますが?」
「「今でも町だ。住んでいるのは私とアレだけだがな」」
「……優秀な使い魔とお見受けしました。あちらの方もさぞ優秀なのでしょうね」
カガチは目を細め、自身を優秀と言ったウォレンを見つめた。沈黙とも言えるような静かな魔力を帯びたウォレンの才を、カガチも気付いていたのだ。
「「危害を加える気も、加えられる気もない。我が土地に入ったのであれば、名乗りたまえ」」
そう、ウォレンは最初の挨拶時、己が名前を名乗らなかった。だからカガチも名を伏せた意図を考え、自身と主の名を伏せたのだ。
「ふふふ、これは失礼しました。私はレンと申します」
「「……嘘だな」」
「お見事です。ふふふ、カガチの四つの目は誤魔化せませんか。重ねてお詫びします。ウォレンと申します」
「「ほぉ、黒帝だったか。道理で……」」
「私としては是非その続きを聞きたいのですが……いえ、今は無理そうですね」
そう言ったウォレンの目は、カガチではなく別の方を向いていた。
防塵用のマントを背後から引っ張るのは無垢なエメラルドグリーンの瞳。
「師匠、この人誰ですか?」
「これは素晴らしい才能ですね。マントを掴まれるまで気配に気付きませんでした」
「「ララ、客人だ。栄養のつくものを持って来なさい」」
「はい! かっしこまりましたっ!」
無垢な瞳を持つ少女ララは、カガチの言葉を受け、敬礼をしてから、遠くに見える小屋へと走って行く。
「面白い関係のようで」
「「否定はしない」」
「ではそろそろ貴方のお名前をうかがっても?」
「「ルタ爺と呼ばれている」」
「……嘘ですね」
「「さっきの仕返しだと思ってくれて結構だ。ツァルだ」」
面識のなかった三人が出会い、また糸が紡がれる。
「ところで先程から気になっていたのですが、この魔力反応……近くに空間転移魔法陣があるのでは?」
「「お主になら言っても構わんだろう。ポチズリー商店への直通便だ」」
「なるほど、アズリー君関係の方でしたか。なるほど、フォールタウンが蘇る訳ですね」
ララとツァルが丹精込めて作った、特製の茹で落花生を口に放ったウォレン。
その顔には自然と笑みが生まれる。
「これは素晴らしい。どうでしょう? 余りがあるのでしたら買い取りますが?」
「「……ふむ、定期契約ならば考えよう」」
「料金はアズリー君割引という事でどうでしょう?」
「「何を言う、アズリー殿割引を使うのはこちらだ」」
「ではそれをアズリー君割引で帳消しにしましょう」
「「面白い」」
淡々と進むツァルとウォレンの契約。ララは、脇でそれを聞き、目を輝かせている。
「では、仮契約という事で」
ウォレンがそう言った時、その輝きは感情に変わり、ララに両拳を握らせた。
「ららふぁ~むの初契約! とったどーっ!」
滅びの町に三人。
アズリーという名の糸で紡いだ縁は、契約という名の固い約束へと変貌を遂げた。
「「ララ、まだ仮契約――」」
「――とったどー!」
「「やれやれ。本契約は早そうだな」」
無い肩を落とすように、ツァルは溜め息を吐いたのだった。
【その4】まであります




