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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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◆337 止まらぬ歩み

「……さて、遊んでやろう」

「くっ!」


 ガスパーがそう言った時、アズリーは再び究極限界(アルティリミット)状態となった。


(気を抜かなければ吸魔にやられる事はない……!)


 そう判断したアズリーは、リーリアを避け、進んで前に出た。


「アズリー、気を付けて!」

「わかってる! 皆、離れてろ!」


 今の銀たちには荷が重すぎる。アズリーはそう判断した。


「ポチ、皆を頼む! ヴァースを探せ!」

「……っ!」


 ポチはアズリーに何も言わず駆けた。

 銀の三人もそれに続くように駆けたのだ。皆、歯を食いしばって。


「何だ、ヴァースを探していたのか。てっきり国の崩壊を望んでいるのかと思ったぞ?」

「うるさい! このままじゃ国が崩壊するのは明白だ!」

「何を言う? 魔王討伐の後、私が完全な統治をするのだ。誰も文句を言う事はあるまい?」


 ガスパーは真顔でそう言った。

 そして更に続けたのだ。


「人間による統治など滅ぶのが必定。しかし、全ての人間をコントロールし、家畜として運用すれば、全て丸く収まるではないか?」


 平然として言うガスパーを前に、アズリーがドリニウム・ロッドを強く握る。


「それはつまり、お前は既に人間じゃないという事だな!」

「当然だろう? 私の隠れた魔力に気付かぬそなたではあるまい?」

「っ!? どういう事だ!」

「時間がない。私の城を壊した罪、そして私の貴重な時間を潰した罪は非常に大きい。死ね」


 直後、アズリーは正面にドリニウム・ロッドを出した。

 それが幸いしたのか、アズリーはガスパーの強烈な蹴りをドリニウム・ロッドで受け、後方へ吹き飛んだ。

 次にリーリアが真横に現れたガスパーに斬りかかる。

 剣の面をトンと撫でるように弾き、リーリアの身体を操作するガスパー。

 一瞬でガスパーに背を見せてしまったリーリアは、そのままアズリーの時同様に蹴り飛ばされてしまう。


「――ぉおおおおおおおおおっ!!」


 城内から再び現れるアズリー。

 杖の先端を掴み、力を溜めている。


「バーストッ!」


 魔王ルシファーすら翻弄した魔法だったが、ガスパーはこれをいとも簡単に掴んでしまう。


「何の工夫もないな。つまらん」


 今度はガスパーの右拳によって殴り飛ばされ、アズリーは、起き上がろうとしていたリーリアに直撃する。


「弱いな。本当にお前たちが聖戦士だったのか? いや、私が強すぎるだけ……か」

「ハイキュアーアジャスト・カウント2!」


 アズリーは、自分とリーリアにその場で回復魔法を掛け、ガスパーの残念そうな顔を睨む。


(くそ、トゥースの言った通りだな……強いなんてレベルじゃない。これは魔王ルシファーにすら匹敵する程の強さ。いや、それ以上か……!)

「さて、やる事は多い。そろそろ死ぬがいい。煉氷爆撃(れんひょうばくげき)


 目にも止まらぬ速度の宙図(ちゅうず)にアズリーの目が囚われる。


「っ! ぐぁあああああああっ!?」

「きゃぁああっ!?」


 アズリーはリーリアと共に城内奥まで吹き飛び、その場で意識を失った。


「ほぉ? 思ったよりも丈夫なようだな。仕方あるまい」


 小さな溜め息を吐き、ガスパーは歩を進める。

 このままではアズリーたちの命が危ういが、ポチと銀の三人はすでにレガリア城内を走り、戦魔帝ヴァースを探し始めている。

 誰も二人を助けられる者はいなかった。

 ガスパーが壊れた外壁からレガリア城に入ろうとするこの時までは(、、、、、、)


『――そうです。ようやく顔を出してくれましたね。ガスパー』

『よーし! やっちゃいなさい! チキン!』

チャッピー砲(、、、、、)発射! ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 突如空に現れたのは黒紫(こくし)の伝説。

 一点集中型の巨大なチャッピー砲が、ガスパーの側面を捉える。

 アズリーから離れ、幾千もの時を超えた伝説の紫死鳥(ししちょう)

 この場にチャッピーが居合わせたのは、ブライトの考えなのか、それともチャッピーの意思なのか。


「ぬっ!? くっ! ぉおおおおおおおおおおっ!」


 不意を()かれたガスパーは、チャッピー珠玉のブレスにより、大地に足を埋めた。


「こ、小癪な……! 獣風情が生意気な!」


 しかし、ガスパーは動けなかった。

 両の手で抱えるチャッピー砲の魔力はそれほど高濃度で、一瞬でも気が抜けなかったのだ。

 そしてそれはチャッピーも一緒だった。ブレスを吐き出しながらも、チャッピーの顔には少しの油断もない。

 相手はアズリーやリーリアを手玉にとる程の実力者。

 不意を衝き、全力全開の最強技で挑んでいる。

 しかし、ガスパーを止める事は出来ても、ダメージを与える事は出来ないのだ。


 この巨大な衝撃により、アズリーより後方にいたリーリアが目を覚ます。

 そして、すぐに起き上がってアズリーの頬を何度か叩いたのだ。


「アズリー! アズリー!」

「う、うぅ……!」


 薄っすらと目を開け、アズリーは上体を起こす。

 しかしすぐに覚醒したのだ。それが、間近で起こる強力な魔力のぶつかり合いが理由だという事は明白だった。


「一体……何が起きたんだ!?」

「わ、私にもわからない……!」

「くっ! ほほい! ハイキュアーアジャスト・カウント2!」


 身体を回復させたアズリーは起き上がり、外の様子を(うかが)おうとした。


「っ!?」


 しかし、それを止めたのはリーリアだった。


「リーリアさんっ?」

「今の私たちでは奴に敵わない。このチャンスに逃げるのよ!」

「けど、外で戦ってる人は!?」

「気付いてるでしょう! ガスパーの魔力は些かも落ちていないわ! それは外で戦ってる者もわかっている! つまりこれは、私たちを逃がすための時間稼ぎ!」


 リーリアの推測は正しかった。

 肌で感じる事が出来る程のガスパーの魔力。リーリアの言う通り、ガスパーにはまだまだ余力がある。

 アズリーはドリニウム・ロッドを強く握り、外で戦うチャッピーを見る事をせず、決断を下す。


「……くそっ!」


 何も出来ない不甲斐無さ。

 リーリアもそれは同じ気持ちだった。

 だからアズリーの顔を見て一度だけ頷き、レガリア城内、その奥へ走って行ったのだ。

 アズリーは眼前に広がる魔力のぶつかり合いを見ながら、この戦場最後(、、、、、、)宙図(ちゅうず)を行った。


「ほい! オールアップ&リモートコントロール!」


 魔力の放出角度から考えた、まだ見ぬ味方の居場所。

 そこへ身体強化魔法を運ぶアズリー。


「誰だか知らないが……死ぬなよ!」


 そう叫び、アズリーはリーリアの背中を追う。

 中空でチャッピー砲を放出するチャッピー。そして結晶の中にいるフェリスとブライトの眼前に現れるアズリーの援護魔法。

 それが解き放たれ、チャッピーに降りかかる。

 懐かしき父親の、懐かしき師の、懐かしき魔法。

 ガスパーと対峙しながらも、チャッピーは目から大きな滴を零した。

 止まる事のない涙は首から下がる結晶に当たり、そして落ちていく。


『何故あの人の魔法は……こんなにも温かいのでしょう』

『ふ、ふん! 魔法でも使ってるんじゃないのっ』


 結晶の中で魂が泣く事はない。

 しかし、ブライトの声は、虚勢を張るようなフェリスの声は……どうしようもない程、震えていたのだ。


(あぁ……あぁ父上! もっと近くで……! もっと父上と母上のお顔を見たい! そして一言。一言でいいのです。ただ、ただ一言『頑張ったな』と言って撫でて欲しい……!)


 チャッピーの止めどなく流れる涙を、拾ってくれるアズリーとポチは、この場にいない。

 しかし、アズリーの魔法だけでチャッピーは戦えた。

 その魔法は、アズリーの優しく大きな父親の手のようだったから。

 温かな魔法が降りかかる一瞬を、全身で感じながら、チャッピーは涙を流し続けた。


(父上と母上が目的を達するその時まで! 私は負ける訳にはいかない!)


 能力向上したチャッピーの攻撃力は各段に向上し、ガスパーの腕と膝に、更なる負荷を掛ける。


「ぐぅっ!?」

「――ァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」

「ふん、その魔力尽きる時が、お前の攻撃が止む時だ……!」

『師匠!』

『急ぎなさいよねっ!』


 レガリア城内を駆けるアズリーの表情は、焦燥と悔しさに満ちている。

 しかし、アズリーは歩みを止めない。

 それは、温かな三つの気持ちが、その大きな背中を押したからかもしれない。

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魔王越えか冷めるな
[良い点]  涙無くして語れない5000年の時を経たチャッピー!(涙)
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