◆301 バディンの記憶
2018/2/28 本日八話目の投稿です。ご注意ください。
――アズリー。アズリー。アズリー……アズリー? どこだ? 我が聞いた事のある名前だ。ガストンの記憶? いや、我が目覚めたのはあのビリーが目の前に現れてからだ。しかし、この者たちが見据えているのは悪魔ではない。何だ? この内に眠ったような滾る思いは? 宿主の記憶? そうだ、宿主の記憶に何か……何かあるのかもしれない。
【失礼します。ベイラネーア魔法大学学生自治会書記アズリーと申しまひゅ!】
【その使い魔ポチと申しまひゅ!】
――宿主の心がわかる。この時、この者の内なる魔力に気付いてはいなかった。なるほど、この者がアズリー……。
【ちょ、俺ランクBぃいいいいっ!!】
【私は関係ないですぅうううううっ!!】
――そこらの冒険者と力がそう変わる訳ではない。アズリーが持っていたのは……底知れぬ知識。
【えー、何でバレちゃったんですか!?】
【こらポチ、黙れ!】
――そうか、悠久の刻を生きる者だったか。
『――――という訳で、空間転移魔法の発表は私がする事になったわ』
『くふふふふ、小僧らしい。お主の研究も形無しだな……アイリーン?』
『う、うるさいわね、糞爺!』
『はっ! 糞婆が何か吠えとるな!』
――我や我が主がいないこの時代にも空間転移魔法が……? 空間転移魔法? 何だ? 何を忘れている?
【ソウカ、空間転移魔法陣ヘノ搭乗進路カ】
――これは、我の記憶? 誰だ? 我の前にいるのは…………っ! ……アズリー? いや、間違いない。身体的成長はしているものの、その面影は残っている。間違いない。我は…………既にアズリーと出会っていた?
「アズリー君の戦果……か。なるほど、確かにそう呼んでいいのかもしれないな。それにしてもまさかこのメンバーが残るとは…………そうか、あの予言、やはり捨て置く訳にはいかないという事か……」
ビリーが小声でそう呟く。
「ではまず……誰から血祭りにあげてやろうか?」
ビリーが人差し指を皆に向け品定めするように言う。
「はん! おうおうおう! その糞ったれな脳みそに強烈な一撃をくらわせてやっから、そこ動くんじゃねぇぞ!」
マイガーの前でピタリと止まったビリーの指。直後、オルネルの指示がマイガーを救う。
「っ! 跳べ! マイガー!」
鬼気迫るオルネルの言葉を受け、マイガーの全身は本能的に反応した。
跳躍したマイガーが元いた場所では、既にビリーの右拳が大地を砕いていた。
次に動いたのはバラード。真横で弾けた大地とその拳が纏う殺意を真に受け、バラードもまた本能的にブレスを吐いたのだ。
ビリーはそれをまるでおもちゃでも扱うように左手で握り潰す。
「エアクロウッ!」
そしてマイガーが降下しながら斬り裂く衝撃波を生み出す。これに対しビリーはその衝撃波もろともマイガーを殺そうと、ブレスを吐いた。万事休すの事態。動かないマイガーの身体を、身体ごとぶつかって横に弾き飛ばしたのはフユの使い魔プラチナ。そのプラチナも身体を逸らし、ブレスの直撃を免れる。
「ちっ! スターホースか! 流石に速いな」
ビリーが見せる背中……戦士が見れば大きな隙なのだろう。しかしバルンは動けずにいた。ただの背中ではない。悪魔の背中なのだ。ひとたびそこに潜れば、生きて帰って来れる保障はない。
「っ! 雷刃!」
だからこそ、バルンは地面に剣を突き立て、遠距離からの攻撃を選んだ。
「シャープウィンド・アスタリスク!」
そしてオルネルがそれに合わせるように、大魔法のスウィフトマジックを発動した。
大地と真横からの連撃がビリーに襲い掛かる。
しかし、
「ふん」
それがまともにビリーに届く事はなかった。
魔力の壁が厚すぎてビリーに届いたのはほんの少しの風と、ほんの少しの地鳴りだった。
直後、リッキーが投げた岩石。ビリーは大地から右拳を抜いた反動でそれを破壊する。
「「――のほい! オールアップ&リモートコントロール!」」
この時、リナとフユが自身に身体強化魔法を施す。続く行動は同じ。全ての仲間に強化魔法を行き渡らせる事にあった。ガストンとの合流前にもオールアップの魔法は掛けていた。しかし、彼女たちの魔力は既に少なかった。ガストンの足下にあるギヴィンマジックに片脚を乗せ、その力を借りながら、魔力を回復させつつ皆の強化を試みているのだ。
「多少強化しようがいずれ尽きる魔力だ……せいぜい生きながらえるがいい……! むっ、何だそれは……?」
炎龍の杖を片手に持ち、宙図をしながらリナが反対の手で掴んでいたのは退魔の色。
恩師の服を選んだ時にリナ自身が選んだ銀のキーペンダント。そんな恩師との繋がりのために同じ物を購入したリナ。そんなリナにとっての思い出の品。しかし、そのキーペンダントに眠っているのは思い出だけではないのだ。そのアズリーがくれた思い出以上の思い出が、そこに込められているのだ。
「……どこで手に入れたのかは知らないが…………危ないな」
その異質。そのキーペンダントに眠る異質に気付いたビリーの洞察力は流石なのだろう。
当然、ビリーのターゲットはマイガーからリナに移り変わる。その視線にいち早く気付いたのは、リナを一番見ていた者。それは、今ではない。王都守護魔法兵団に入った時から……いや、魔法大学に入った時から見ていた者。
「リナァアアアアアアッ!!」
リナの正面に入り、全魔力を放出して杖を前に出した男の名は――オルネル。
リナがアズリーからもらった炎龍の杖を持った時、同じ杖を持っていたオルネルは密かな想いの中に歓喜した。リナがアズリーに繋がりを求めたように、オルネルもまたリナに繋がりを求めた。
しかし、彼が守りたいものはそんな繋がりではなかった。己の全てを擲って守りたいのはリナという存在全て。
「カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ビリーが放った一撃は強力なものだった。しかし、オルネルが守ろうとしたモノはその一撃を全力で、的確に捉えたのだ。
回復に専念していたガストン、その魂の器となったバディンが見たオルネルの動きは、
「『見事だ……』」
称賛に値するものだった。
オルネルの炎龍の杖は壊れた。しかし、オルネルの全力は悪魔の一撃を確かに逸らしたのだ。
直後、オルネルの身体が限界を訴える。
魔力枯渇による気絶。オルネルの身体は最後まで戦闘続行を願うように倒れなかった。倒れず……膝から身体を崩したのだ。
「っ!!!!」
眼前で起きた光景に、リナの涙は溢れ、そしてその肩をガストンが支えた。
静かに頷くガストンの目。その奥に宿る炎と共にリナは大きく叫んだ。
「あぁあああああああああああああああっ!! あぁっ!!」
言葉にならないようなリナの泣き声は、ガストンの耳で聞くバディンに届く。
――何とも……熱き者たちよ。
「ち! しかし一人倒れた!」
そのすぐ後、ビリーが反転し、再びリナを頭上から狙う。
「「――ほい! オールアップ&リモートコントロール!」」
フユ、そしてリナが声を荒げながらバラードとプラチナに向かって身体強化魔法を施した。
そして、
「フユ! 後はお願い!」
「はい!」
涙を振り払うかのように頭を振り、リナは首に下がっていた銀のキーペンダントを引き千切る。
迫るビリーに向かい振りかざされるキーペンダント。
そして師に言われた通り、魔力を込めてリナが叫ぶ。
「リンク・マジック!」
瞬間、眩い光が戦場を、世界を覆う。
「ぐぉ!? ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」
強い発光と共に広がる強大な魔力。
直後、悪魔ビリーの目に映ったのは、
「何だこれはっ!?」
リナの恩師がリナに与えた。
一瞬の輝きという名の――――究極限界。
リンク・マジック!!




